雀はその日、気まぐれに万事屋を訪ねていた。
部屋の主である銀時は雀の訪問にも特別普段と変わりなくソファでまどろんでいる。
そんな銀時を打ち眺めながら雀は一言提案した。

「お前もそろそろ身を固めたらどうだ?」

それは純粋に二十も半ばを過ぎた旧友の身を案じて発せられた言葉だったのだが、銀時にとってはいささか耳の痛くなる話だった。
銀時は閉じた瞼を少し歪ませたあと、伸びをしていかにも大儀そうに体を起こした。

「雀さんよぉ、この俺が妻帯なんてできる男に見えるか?」
「ああ見える。男は五体さえあれば女ひとりくらいどうにでもなる。それに俺が言っているのは体裁繕いの小言ではないぞ」
「つーてっと?」
「嫁は生きる甲斐になるという事だ。確かに女は何かと面倒だろうが、よく働くぞ。お前も毎日腐って酔いつぶれて、家に帰っては灯りも無いなんてのは嫌だろう」
「ちょ、言い過ぎじゃねぇの雀ちゃん……?」
「とにかくいつまでも独り身でいる訳にはいかんだろう」

銀時は強引に話を進める雀に苦い顔をしたが、実際は内心その勧めに対して多少の同意を示していた。
事実、結婚するのなら若いうちが良いのに決まっているし、この頃はお登勢も会う度に暗に見合いを勧めてくる。
銀時はそれら全てを適当にあしらっていたものの、周囲の提案が自分の老い先を心配しての事だということは分かっていた。

だからといって簡単に決められるものではない。
縁付きの話を進めるとなれば、銀時ひとりの問題ではなくなるのだ。

「だからって、んなすぐに決めらんねぇよ……俺は独りでいるのが性にあってる」
「そうか……」

雀は惜しそうに呟いて目を伏せた。
銀時はその雀の様子を見た時、居心地の悪くなるのを感じると同時にふと頭に一つの案を浮かべた。

「家族ごっこしねえか?」

銀時の言葉に雀は首を傾げた。

「なぜ児戯を始める?」
「そうじゃねえ、しばらく俺の嫁になってくれってことだ」

銀時の思いつきは、雀に一定の期間夫婦になってもらい、その生活が悪くないと感じれば見合い相手を探すことにしようというものだった。

なんとも自己中心的な提案だが、当の銀時はこのくらいでないと自分の重い腰は上がりそうにないと思っていたし、何より雀はそんな茶番を受け入れるはずがないだろうとタカを括っていたのだ。

しかしそんな銀時の打算とは裏腹に、雀は少し考え込む素振りを見せたあとにこりと笑って言った。

「承知した。お前と夫婦になろう」
「そうそう、俺なんかに嫁ぐなら………って、は?承知?マジに言ってんの??」
「ああ」
「夫婦だぞ?ひとつ屋根の下だぞ?」
「だから応と言っているだろう。くどいぞ」

雀はあっさりと銀時の提案に乗ったのだった。

×××

「つーわけで、今日から俺の嫁になった雀さんです。テメーら、仲良くやってくれ」
「雀だ。不束者だが、手柔らかに頼む」

次の日の朝イチ、銀時は早速ややヤケクソに、新八と神楽に雀を紹介した。

「え……」

新八の注いでいた茶が湯呑みから溢れた。
奥から覗いていた神楽は歯ブラシを咥えたまま目を丸くしている。

そんなことには構わずに銀時は定位置のソファにおさまり、雀は朝餉はまだなようだなと台所へ向かった。

「ちょ、ちょっと……雀さん!」

その袖を立ち上がった新八が慌てて掴んだ。

「……?どうした書生」
「僕は書生じゃありませんよ!それより少し来てください!」

新八は雀の袖を持って隣の座敷まで引っ張っていった。
歯磨きを終えた神楽も続くように部屋に飛び込み、襖をピシャリと閉める。

「単刀直入に聞きます。本当なんですか?さっき銀さんが言ったことは……」
「うん」

間違いは言っていない。雀は簡潔に答えた。
新八の目が驚きに見開かれる。袖を手に持ったまま俯いてしまった。

「アンタ馬鹿ネあんなロクデナシのクルクルパーと一緒になるなんて!今からでも遅くない解消するアル!!」

神楽がもう片方の袖を裂けんばかりに引っ張って嘆く。
雀はその物凄い力に驚きながら、この不歓迎をどうしようか悩んだ。

「おーいオメーら全部聞こえてますよー」

襖を開けた銀時が気だるげな顔を覗かせた。

「安心しろ、ちょっとしたごっこ遊びだよ。かくかくしかじかで……」

銀時は新八と神楽に、擬似的な夫婦になった経緯をかいつまんで聞かせた。

それを聞いていくらか落ち着いた2人は、多少納得して袖から手を離した。

「嘘でも銀ちゃんと結婚したくないヨ」

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