*付き合う前


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空が澄み渡り、寒さが身に染みる今日。ゆいはさつきとカフェに来ていた。最近バスケ部に顔を出すようになったゆいはさつきとよく話すようになった。そして仲良くなった二人は巷で噂のカフェに行こう、とこのカフェに来ていたのだ。
ランチを終え、ゆいはことりとカップを置いた。うん、やっぱり美味しかったな。そう思い満足気にカップに波打つカフェオレを見つめる。ふいにさつきがゆいに声をかけた。
「ゆい先輩の好きなタイプってなんですか?」
「え、なんで?」
恋愛の話なんてしていただろうか?ゆいは首を傾げる。そんな不思議そうなゆいにさつきは困ったように笑い、その質問に至った経緯を語る。
「いや、ゆい先輩と話せば話すほどなんだかゆい先輩はしっかりしてて、こう、なんて言うんでしょう...」
「男の人を好きにならなさそ?」
そのすいません、と言いながらもさつきは肯定を示す。あぁ、まぁよく言われるよ、とゆいも別に不快に思っていないようで、小さく笑いながらカフェオレを飲む。そんな様子にさつきは安堵の息を吐く。
「好きなタイプ、ねぇ...」
ふむ、と顎に手を当てる。傍から見れば様になっているそれはやはり言い方は悪いが女の子らしくはないのでは、とさつきは思っていた。それは悪口ではなく、ただそこらの男よりも様になっているからで、そう。言うなればかっこよすぎる。あぁ、ゆい先輩が男だったら良かったのに。
「ももちゃんはさ、私がしっかりしてるって思う?」
それはさつきが予想もしてない言葉であった。目をぱちくり、何度か瞬きしその言葉を理解する。ゆいはそんなさつきにクスリと笑う。
「え、だって、ゆい先輩、後輩の面倒見いいですし、気遣いできるし、しっかりしてると思います。」
「そう...でもね、実際はそう見えるだけだよ。」
「へ?」
「知らないかな?でも知らないでいいよ。後輩にはそう思っててほしいから。」
ふふ、っと笑うゆいにさつきはますます不思議そうに瞬きをした。
「あ、話が逸れちゃったね。好きなタイプは、私よりしっかりしてる人。」
「え、そんな人いないんじゃ。」
さっきは驚きを隠せなかった。そりゃ優しい人とか、かっこいい人とか、そんな普遍的なものではないと思っていたが想像の斜め上だ。しかも範囲が狭すぎるのでは?だって、そうだろう。ゆいはなんだって基本的に全て自分の力で何とかしてしまうし、誰かに助けを求めることを見る限りでは無かった。先程から驚かされてばかりだ、恋バナでこんなに驚くことなんてあるの?そんなさつきにまぁそうだよね、とくふりとゆいは笑う。
「いるよ。ちゃんとゆいはしっかりしてないなって言ってくれる人が。」
ゆいはそう言うと少し冷めたカフェオレのカップを両手で包んだ。揺れるカフェオレにその言葉を言った人を思い浮かべる。
ーー
あれはいつだったかな、確か本を読みながら図書室に向かっている時だったかな。あまりにも面白い本で夢中になってしまって、図書室に着いたのに気付かなくて思いっきりぶつかった。痛みに無言で耐えていると後ろから笑い声が聞こえてきて。振り返ればそこに彼がいた。
「なんや危なかっかしい子がおるなぁ思たらゆいかいな。」
「んん......痛い...」
「そらそやろ。見せてみ?......あぁ、赤くなってるわ。なんや、しっかりしとる思とったけど案外ぬけてるんやなぁ。」
ーー
それが私にとってどれだけの力を持っているのか、知っていたのだろうか。まぁあの人なら知っていたのかもしれない。少し癪に障るが、けれど嫌でないということはそういうことなのだろう。あぁ、好きになってはいけない人を好きになってしまったなぁ、なんて。
さつきは、あ、と思う。やっぱりこの人は女の子なのだと。いるよ、とそう言ったゆいの顔は正しく恋する乙女で。可愛いと思った。それと同時にふつり、と沸いたのは悪戯心。ゆいにそんな顔をさせているのは誰なのか、と。
「ゆい先輩、そう言ってくれた人って誰ですか?」
「ん〜、秘密。」
「えぇ!ゆい先輩!!」
「そのうちね、心の整理が出来たらちゃんと教える。」
「もう!絶対ですからね!」
「うん。」
まぁ、ももちゃんなら直ぐに気付くと思うんだけどなぁ。


さつきが気付くまで後ーー











※おまけ※
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
バスケの練習が終わり、部室へ向かうもの、自主練をするもの、掃除をするもの。桃井は部員全員にバスタオルとスポーツドリンクを配り終え、目当ての人に声をかけた。
「今吉さん!」
「ん、桃井やん。どないした?」
今しがた貰ったタオルで汗を拭っていた今吉は桃井の方を向いた。見えた桃井の顔から恋愛の事だろうと当たりをつける。一体自分に何をもって恋愛の話などしようとしているのだろうか。
「あの、プライベートの話なんですけど、好きなタイプってありますか?」
「好きなタイプか、せやなぁ......猫、みたいな子かいな。」
「猫ですか?」
予想外だったのだろう、きょとりと首を傾げる桃井に今吉は笑みを深めた。そして好きなタイプ、もとい好きな子を思い浮かべる。警戒心が高い上に人に甘えることが下手で。いつも気を張って気高く居ようとするそれはまさに猫のようで。けれど人に頼りたくて、甘えたくて、しっかり者に見えて実は抜けている、そんな矛盾ばかりを持っている子。あぁ、全くタイプではなかったはずなのに。
「せや。あぁ、ほらもう遅いから帰らなあかんで。」
「え、あ、はい。お疲れ様でした。」
「ん、お疲れさん。」
桃井を見送った後、今吉はふと気配を感じて振り返る。そこにはからかわんとする諏佐の姿があった。
「なんや諏佐、聞いとったんか。」
「あぁ、あれ、神崎のことだろう。」
流石というかなんというか。よく見てるなぁと思う。3年も一緒にいたからなのだろうか。
「流石やなぁ。そない分かりやすかったやろか?」
「いや、俺以外は分からないだろ。」
「ほおか。」
ほんならええか、と部室に足を進める。さらりと頬を撫でる風は少し肌寒くて今吉は身を竦めた。