バレンタイン
「あざみさん、お疲れ様です」
「ハンザくん」
眼帯が特徴的な男が口元に笑みを浮かべながら女に近づき定位置とでもいうように横に佇む
女と同じように空を見上げたかと思えば視線をスっと落として彼女の手元─────缶コーヒーを見る
「…カフェインはもう効かなくなったのでは?」
「うん、癖で茶色くて苦い液が入った缶を習慣的に買ってる」
女が缶のフチをなぞるようにしながら男に返事をした、口元には自嘲的な笑みが浮かんでいる
男が冗談めかして、クマが酷くなりますよと言うと生まれつきだよ、と半笑いで女が返す
彼女の口元にある笑みが初めよりは幾分か良くなったのを横目で見たハンザの目がスウと細くなる
安堵か、はたまたそれ以外の感情か、彼の口元も彼女と同じように緩やかに弧を描く
そして音を立てないようにゆっくりと深く息を吸ってはいてから、それまでの流れを断ち切るように緩やかに女の前に立った
「ところであざみ殿?この後のご予定はおありで?」
背丈の高い彼がわざとらしい言葉と共に彼女の前に立った為、彼女が見上げていた青が彼の白いカッターシャツで塗り重ねられる
「別にこれといった用事は無いけど...何?」
その答えに浮かべていた笑みを深くしてから、仰々しく彼女の前に手を差し出した
「今夜、私と一緒にディナーでもどうです?」