02


思い立ったが吉日。こうと決めたことをくよくよ悩むのは、あんまり好きじゃない。出来ることならサラッと終えてスパッと切り替えたい。任務と一緒。だから伏黒くんに続いて帰ろうとする虎杖くんを呼び止めた。なのに困った。いざ彼を前にすると、どうも言葉が浮かばない。

どう切り出せばいいのやら。好きですなんて、たぶんいきなり言うもんじゃない。場所だって変えた方がいいに決まってる。ああ、どうしよう。喉が詰まって鼓動がうるさい。告白ってどうやるんだっけ。ドラマや漫画で得た知識を必死に引っ張り出す。早く早くって焦りばかりが思考を占めて、ダメ。全部真っ白。

それでも虎杖くんは怒ることなく、わざわざ靴先をこちらへ向け「私ら先帰るから」と伏黒くんの背中を押した野薔薇に「おー」と返した。さっさと歩きなさいよ、分かったから押すな、なんて声が足音と共に遠ざかる。空気を裂く、真っ直ぐな視線が戻ってくる。


「みょうじ?」
「……」
「えっと……なんか、言いづらい感じ?」
「そ、じゃ、ないんだけど」
「うん」
「言い方、分からない、感じ……」


途切れ途切れに絞り出した声は、情けなくも窄んでいった。ぎりぎり吐き出せた蚊の鳴くような謝罪が床へ落ちる。これは仕切り直した方がいいかな。

やっぱりなんでもない。申し訳なさと諦めを背に、そう口を開きかけた時、大きな手が肩に乗った。慌てて顔を上げると、いつもの朗らかな笑みが待っていて。


「じゃあ飯行こ!」
「え……?」
「ほら、緊張したりしたら上手く喋れんくなるって言うし、ゆっくり出来るとこのが良くね? つっても今日五条先生いねーからファミレスくらいしか行けねぇけどさ」


眉を下げながらの苦笑いに、胸の内が熱くなる。

そう、こういうところ。鬱陶しがったり、ちゃんと考えてから出直してこいって突き放すんじゃなくて、今どうにかしようと寄り添ってくれる。私の最善を考えてくれる。もしかしたらうんとくだらない話かもしれないのに、自分の時間を余分に削ってまで聞いてくれようとする。そんな、決して恩着せがましくない優しさに触れる度、ああ好きだなあって想いが募る。


「みょうじ何食べたい?てか行ける?」
「うん、行きたい。虎杖くんは何食べたいの?」
「んー……肉、かな。ビフテキとか」
「じゃあそれにしよ」
「いいの? 俺、あんまみょうじに肉ってイメージねぇんだけど……」
「大丈夫だよ。なんでも食べれる」
「そっか。なら安心だわ」
「ありがとね。気にしてくれて」
「おう! どういたしまして」


辺り一帯を夕陽が赤々と染めあげる中、嬉しそうな虎杖くんの笑顔がひと際眩しく網膜を焼いた。




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