07
(side.虎杖)
「……嬉しい」
ごちゃごちゃしていた頭の中が綺麗に凪ぎ、ただ浮き彫りになった本心をみょうじの華奢な肩へ沈ませる。驚いたり強張ったりすることなく、しっかり繋いだまま、全然離れようとしない小さな手が温かくて心地いい。今の今まで恋情を呑んでいた荒波が引いてって、代わりに降ってきた愛しさに締め付けられる胸の内。微かに香る花の匂いに、ああみょうじだなぁって熱が湧く。
祖父ちゃんが死んだ時、なんだかんだ辛かった。そりゃ入院生活の高齢者だし覚悟はそこそこしてたけど、それでもやっぱり悲しかった。気持ちの整理も何もかも、全部自分一人でってのは凄いしんどい。そんな遺される側を経験したからこそ、みょうじに同じ思いはして欲しくなかった。させたくなかった。どうせ死ぬ俺じゃない方が、って本当に思った。
けど『呪術師だよ』って言われて、ハッとした。任務は別だし、女の子らしい普段しか知らないもんだからすっかり頭になかったけれど、そもそもみょうじは伏黒以上の準一級。綺麗事でも建前でもない正当な本音を耳にして、俺のはあくまで、呪いと無関係に生きてきた人間の考え方だって気付いた。それを責めることなく、縋りもせず。『傍に居たい』って見つめられ、その上『最後の人になりたい』なんて。もしかしたら、みょうじの最後が俺になるかもしれねえのに。
「……ありがと。そんな、本気で想ってくれて」
「だって好きだから、」
「うん。めちゃくちゃ伝わってる」
ああ。鼻の奥がツンとする。
「いいの? 本当に俺で」
「うん。虎杖くんがいいよ」
「そ、か」
「うん」
目頭が熱を持つ。間もなく喉が引き攣って、仕方ないから息を呑む。泣くなかっこわりぃ。そう、今にも震えてしまいそうな唇を真一文字に引き結ぶ。でもダメだった。慈愛を孕んだ手のひらに優しく頭を撫でられて、宥めるような柔い声が鼓膜を包む。
「一緒に生きよう。虎杖くん」
「、……っ……」
まるで俺には勿体ない、この短時間で何度聞いたか分からない、ひどく愛おしげでいて決して揺らがない「好き」に返す言葉も心ももう、たったひとつだけだった。