02


校門へ向かうと、既に二人は待っていた。毎度お馴染み黒い車を背景に、虎杖くんと肩を並べる伊地知さん。「いつもすみません」と挨拶すれば「いえ、仕事ですからお気になさらず」と、礼儀正しく答えてくれた。誰かさんとは大違い。

相変わらずやつれ気味だけど表情は幾分やわらかくって、ほ、と胸を撫で下ろす。たぶん虎杖くん効果だろう。太陽みたいな笑顔はもちろん。等身大の男子高校生らしさが詰まった会話は、いつも楽しく微笑ましい。年上である伊地知さんなら尚更だろう。ついさっきまで、たわいない話で癒やされていたに違いない。


「では行きましょうか。みょうじさんと虎杖くんは後ろへ乗ってください」
「はーい」
「よろしくお願いします」
「みょうじ!」
「ふふ、ありがと」


扉を開けてくれた虎杖くんに微笑んで、後部座席の奥へと腰を落ち着ける。

―――最近そわそわしてるから気になって

五条先生の言葉が不意に浮かんだけれど、乗り込んでくる虎杖くんは、至って普段どおりに見えた。照れもそわつきも一切なくて、わくわく感もドキドキ感も窺えない。もしかしてこれは、からかわれたか?


「みょうじ? どったの?」
「……なんでもない。今日も安全に頑張ろうね」
「おう!」


にっかりとした大きなお口につられて笑う。本日既に五回目くらいの“好きだなあ”。でも不思議。告白前は、あれがしたいこれがしたいって贅沢な夢を抱えてばかりいたけれど、今は全然、余裕のよっちゃん。虎杖くんが私だけに笑ってくれる。ただそれだけで心がふんわり満たされる。




車窓から流れる街を眺めて少し。赤信号で、運転席から差し出されたのはタブレットだった。受け取った虎杖くんが二人で見れるように持ってくれて、ステーキ屋でのメニュー表が一瞬重なる。途端に鼓動がトクンと鳴いた。

概要書データをタップして、文字の羅列と画像を目で追う。既に伊地知さんは把握済みらしい。車を発進させながら「今回は三級呪霊です」と、すらすら説明してくれた。まさかのカンペなし。この際だから何度でも言おう。誰かさんとは大違い。


確認されている呪霊は計三体。その内二体は四級ととっても軽め。いうなれば虎杖くん向けのお仕事だ。経験を積ませていきたいけれど五条先生は忙しくって、伏黒くんへ任せっきりもちょっと不安だし彼にも彼の任務がある。アンドおまけのおまけに色をつけた結果が私、なんてところだろう。

街はずれにある工事現場、灰色の衝立前で降車すると、間もなく帳が降ろされた。


「おぉー、意外と広い。これ解体途中?」
「みたいだね」
「壊さないようにしねえとかー」
「多少はいいと思うよ。でも車とか機械は気を付けてね。請求されちゃうから」
「うっす」


人工的な夜の中、呪霊を求めててくてく進む。隣を歩く虎杖くんをなんとはなしに見上げれば「ん?」と首が傾いた。やっぱり普段と変わらない、いつも通りの虎杖くん。でも「早く終わらせたいね」ってかけた言葉に同意して「そんでみょうじとゆっくりしたい」と咲いた笑顔は、どこか照れくさそうだった。




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