おててつないで、きみもみちづれ




右隣。凭れかかった先の肩が、ぴくんと跳ねた。

大学生になって少なからず異性と交流する場面も増えただろうに、相変わらず女相手は不慣れらしい。思えば、手を繋ぐことも自転車の二人乗りもデートもキスもお泊まりも、彼は私しか知らない。……たぶん。たぶんね。内緒にされていたら分からないけど、でも真面目で誠実でちょっと頑固で男らしくて。それでいて未だベッドの上では気恥ずかしげに目を逸らすくらい、私のことが大好きだから大丈夫だと思う。心配はしていない。答え合わせもいらない。

ちょっとした優越感に笑みをこぼす。
そしたら「……なまえ」とじっとり睨まれ、その拗ねた猫みたいな目付きもまた愛おしくって、今度は吹き出した。


「お前な……」
「ごめん、可愛くて」
「可愛くはねえだろ」
「ふふ」


分かってないなぁもう。不満気な声色も、照れ隠しにむいっと尖った唇も、全部可愛く見えるんだよ。だってずっとずっと好きな人だもん。なんか疲れたなぁしんどいなぁって時いの一番に会いたくなる、はじめ限定の恋心。

でもあんまり言うと臍を曲げてしまうかもしれない。だから口にはしないまま。そっと触れた手のひらを合わせ、指を絡める。厚い皮膚から滲む温度が心地いい。私の方がお風呂上がりなのに、彼の方が温かいなんて驚きだ。男女の違いが顕著に感じられる骨張った節をすりすり撫でて、鼓動みたいに波打つ肌を堪能する。

その内ぎゅっと握って阻止されて、大袈裟な深呼吸が鼓膜を揺すった。


「全然慣れないね」
「悪かったな」
「いいよ。嬉しいから」
「?」
「なんか、好きでいてくれてるんだなぁって」
「当たり前だろ。好きでもない女の家にわざわざ来ねえよ」
「、」
「お、照れた」
「直球ズルいよもう……」


してやったりと言わんばかり。嬉々として顔を覗き込んでくるはじめに「やだ。今ダメ」って俯いた。持ち上げた膝を抱えて肩を丸め、絶対見えないように熱い顔を隠す。

「耳赤ぇぞ」なんて。言わないでよ、もう。




title 白鉛筆




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