永遠なんてなまぬるい




お互い誕生日に欲しい物を聞くことは、高校の頃から暗黙の了解だった。失敗したくなかったし、どうせなら欲しい物を贈りたい。けれど今年は物じゃなく『……なまえ』と、到底茶化せやしないくらいの真顔でご指名いただいた。一体どこで覚えてきたのか。年甲斐もなくきゅんとするからやめて欲しい。

お店は休みにすると言うので私も仕事の休みをとって、オンラインでケーキを予約。何をおねだりされても笑って応えられるよう、当日朝からお風呂に入って“良い香りがする最強最高に可愛い私”でインターホンをワンプッシュ。出てきた治は、目を真ん丸にして固まった。どや。可愛ええやろ。


「……ごめん。俺めっちゃ家でごろごろする気やってなんも考えてへんねんけど、どっか行くか?」
「え、なんで? 私もごろごろする気で来たで」
「ほんまに? それデート用やない?」
「ちゃうよ。治のためにおめかししました」
「マジか」
「うん。お誕生日おめでとう」
「……」
「?」
「はー……」
「ふふっ」


どうも私が可愛すぎて無理らしい。赤らんだ目元を伏せた治は「まあほな、遠慮なく可愛がらしてもらいます」と、玄関扉を支えたまま半身を引いた。お邪魔します。

通い慣れた部屋にあがって、いつもの定位置であるローソファへ腰を下ろす。治は二人分のアイスコーヒーをテーブルへ置き、それから隣に落ち着いた。さっきから全く目が合わないのは、たぶん照れているからだろう。素っ気なく思える態度は大体照れ隠し。もう付き合い始めて今年で九年になるけれど、それでも未だ、お互い飽きずにドキドキさせたりさせられたり。幸せだなあってのんびり思う。治がいるから、私の世界はあたたかい。


「おさむ」


肩を寄せ、一等まろやかに聞こえる声で呼びつつ顔を覗き込む。ちらり。降ってきた視線が絡まったのは、けれどほんの二三秒。すぐに逸れていった後、やや強引に抱き締められた。誤魔化すためというよりは、我慢の限界、っていう感じ。

しっかりぎゅうっと圧迫されて、高い温度が染みていく。鼻腔を包む香りは治の家の匂い。深呼吸に酷似している溜息と、どんどん速まる鼓動が素直で可愛らしい。照れくさくて顔が合わせられないところはもちろん、大胆なプレゼントを言ったわりに、抱き締め合ってるだけで満足しているところなんかもそう。

愛しい彼は、いくつになっても心底私に惚れたまま。



(Happy Birthday*)




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