一目惚れでガンガン




一目惚れなんて都合の良い話、ないと思ってた。だって特別美人じゃないし、モデルさんみたいなスタイルもない。絵が上手いとか歌が得意とか走るのが速いとか、そんな、他より秀でた何かがあるわけでもない。朝起きて寝癖を撫で付けながら登校し、授業の大半を寝ながら受けてバイトへ向かう極々普通の女子高生。楽しみと言えば深夜のドラマとアニメくらい。初恋だって未経験。

だから運命の人なんて少女漫画の中だけのお伽噺で、単にきっかけを考えられない作者が都合良く取って付けたか、可愛い女の子がたまたま面食いな男の子の趣味に合っただけの、そもそも選ばれし容姿を持つ存在の特権だと思っていた。一週間前までは。


「ねえなまえちゃん。そろそろLINE交換しない?」
「君も飽きないね」
「そりゃあ好きな子だしねー」


にこぉ、とアヒル口を緩めて笑う天童くんにつられ、思わず微笑む。

一週間前の昼休み。食堂で擦れ違った瞬間、全く面識がない――といっても彼は強豪である男子バレー部のスタメンだ。この学園内で知らない人間はいない――にもかかわらず私の腕を捕らえ、名前と学年とクラスを聞いてきた男の子。しどろもどろに答えれば続けざまに放課後の予定を尋ねられ、頭がパンクしたのは言うまでもない。それでもなんとかバイトを理由にお断りしたところ『じゃー今でいいや』って比較的人目がない廊下脇に連れられ『一目惚れしました。俺の彼女になってクダサイ』と左手を差し出された。あまりに唐突で、色恋沙汰に疎い思考は一瞬で止まった。なんのドッキリだとカメラを探したのは記憶に新しい。

結局ろくな確認も出来ず『あの、とりあえずお友達からでもいいですか……?』なんてクソ真面目な返事をしてしまったわけだけれど、彼はそれで満足だったらしい。必死すぎて忘れてたと自分の名前を名乗り、大きな片手をひらひらさせつつ去っていった。それからこうして毎日、ちょっとでも暇があれば会いに来てくれている。どうやら冗談でも罰ゲームでも何でもなく、物凄く本気らしい。


「ねえねえなまえちゃん」
「ん?」
「俺あとどんくらい通えばオッケーもらえると思う?」
「んー……LINEはあと1回で交換出来ると思うよ」
「、……マジ?」
「ふふ」


ぱちぱち瞬いた瞳がパァっと丸まり、まるで抑えきれないかのようにどんどん輝きを宿していく。嘘偽りなく心底嬉しそうな彼の周りには淡い色の花が飛んで見え、それがまたどうしようもなく私の心をくすぐった。



【夢BOX/一目惚れしてガンガンくる天童と満更でもない夢主】




back