どうぞ末永く甘やかしてね




ピアスをあけた。イヤリングじゃどうにも落として失くすから、お母さんに頼んであけてもらった。

左右の耳朶に一つずつ。小ぶりなアクアマリンがきらりと光り、思っていたより凄く可愛い。髪をよけて鏡で見る度、ちょっと気分が高揚する。先生にはバレていない。仮にバレても、そもそも自由な校風だ。よっぽど派手なピアスでない限り黙認される。でもどうやら、彼はそうじゃないらしい。

「なんか耳光ってねぇか?」って不思議そうな声。男の子らしいはじめの指がこめかみへと差し込まれ、ゆるく髪を浮かせた先。きっとピアスが見えたのだろう。気付けば至近距離まで近付いていたその眉間に、深い皺が刻まれた。


「イヤリング……じゃねぇよな」
「うん。あけた」
「おま、親にもらった体だろーが」
「お母さんがあけてくれたよ?」
「マジか」
「まじまじ」


なんとも不服そうな顔を尻目に、ちゅーっとストローを吸い上げる。今日も今日とて購買のパックジュースは美味しい。なのにはじめがご機嫌斜め。どうしよう。あんまりよろしいことじゃない。


「可愛くない?」
「そういう問題じゃねえ」
「んん、嫁入り前だから?」
「そ……れは、まあ……」
「はじめがもらってくれるのに?」
「、」


あ、眉間の皺なくなった。

首を傾げる間もなく逸らされた視線。俯きざま、引っ込めた手で顔を隠し吐き出された溜息は、まるでこもる熱を逃がすよう。まさかこんなことで照れるだなんて微笑ましくって可笑しくて、勿体ない彼氏さんだなあって頬が緩む。たかだかピアスを気にするくらい、とっても大事に想ってくれて、私がしっかり自覚出来るだけの特別感を欠かさずちゃんと実感させてくれる人。

でもさ、ピアスってそんなに悪い物じゃないんだよ。イヤリングだと痛くて長時間つけられないし、マグネットだって本当にすぐどっかいく。勿論はじめにだってメリットがあって、たとえばうんと悩んでくれる私へのプレゼント、全部ピアスで良くなっちゃう。



パックジュースを脇に置き、アリスブルーの袖を掴む。「なまえ?」と降ってきた眼差しを至近距離で捕まえる。


「ピアスあいちゃったから、もう要らない?」


ああ、少し意地悪な聞き方だったかなあ。反省しつつ、それでも小首を傾げてみせれば視界の真ん中すぐそこで、瞬いた猫目が「ずりぃヤツ」って苦笑した。


「どんなお前でも来てくれるっつーなら遠慮なくもらうけどよ。やっぱ体傷付けんのは良くねえし、増やすんじゃねーぞ。心配すんだろ」


再び伸ばされた無骨な指が頬を擦る。髪を浮かせそのままそうっと流しては、ひどく優しく耳の後ろを伝っていった。


title 白鉛筆
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