お砂糖ルミネセンス




昼休み特有のガヤガヤした喧騒の中、教室前で足を止める。視界の中央、捉えたのはキャラメル色のカーディガンと僅かな癖が窺える柔らかそうな黒い髪。頭ひとつ分抜きん出ている高身長も、品良く映える横顔も知っていた。

最近木兎への伝達事項を持ってやってくる、二年生の赤葦くん。落ち着いた風貌から緊張した素振りや初々しさは見受けられず、三年生の教室が揃うこの廊下に上手く馴染んでいる彼は、たぶんまた木兎に用があるのだろう。


教室内を見遣れば、反対側の窓際やや後ろ。背中を向けて机に腰掛けているミミズクヘッドは、派手めのグループと談笑していた。距離的にもメンツ的にもタイミング的にも、あれじゃあ呼びづらいことこの上ない。


「赤葦くん」


振り向いた双眼へ、教室内を指し示す。


「木兎、呼ぶ?」


驚きながらも小さく笑んだ彼は「いえ、大丈夫です」と、緩慢な足取りで歩み寄ってきた。人ひとり分空けた先。こんなに近くでまじまじ見上げるのは初めてで、思っていたより上背があることを知る。今までなんとなく根付いていた華奢な印象は、どうやら木兎と並んでいたからこその錯覚だったらしい。

肩幅広いなあ。綺麗な顔して、しっかり男の子。


「今日はみょうじさん宛です」
「私?え、なんかごめんね。お待たせしちゃって」
「そんなに待ってないですよ。俺が勝手に来ただけなので気にしないでください」
「そう?」
「はい」


涼やかな瞳がやんわり細まる。確かな温もりと優しさを灯す眼差しに、浮上したのは恋心。それでもどこか他人事のように好きだなあって思いながら「じゃあお言葉に甘えて」と微笑み返す。社交辞令抜きで接してくれていることが、ただ嬉しかった。

用件を聞こうとして閉口する。「でも」と、彼の言葉が先に続いた。


「こういう時不便なので、良ければ連絡先、教えてもらえませんか?」


思ってもみない申し出に瞠目する。どうしよう。真っ直ぐな瞳に捕らわれて、目が逸らせない。とくとく高鳴る鼓動と相反して指先一本動かない最中、降って湧いた嬉しさが顔に出てしまわないよう慌てて呑む。

今にも震えそうな唇を律して紡いだ二つ返事は無事、それなりの平静を装えたらしい。差し出したQRコードを読み取った赤葦くんは「有難うございます。また連絡しますね」と会釈をして、階段をおりていった。


結局、私宛って何だったんだろう?

騒がしい廊下で一人、首を捻る。学年と性別はもちろん、部活や委員会さえ異なる間柄。特に貸し借りをした覚えはなく、接点らしい接点もてんで浮かばない。文字通り、赤葦くん来てるよって木兎を呼ぶ中継程度のご縁。

まさか連絡先を聞きに来ただけ、なんて。そんなまさかね。


【合同企画connect提出】




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