夜息のメソッド




急に寒くなったなあって、岩泉家の掛け布団に包まる。残念ながらはじめは一緒じゃない。別室。というのも、自分が起きる時に私を起こしたくない、って彼の紳士的な気遣いを尊重してのこと。たとえ土曜日だろうと日曜日だろうとバレー部に休みはない。いつも通りの時間に起きて、行かなきゃいけない朝練がある。対して私は、いついかなる時も昼まで寝こけていられる帰宅部だった。

それにしても寒い。

なんとか寝ようと大人しく丸まって目を閉じてみたけれど、一向に眠気は来ないし体もあたたまらない。いや、あたたまらないから眠気が来ないのか。冷えた足先を擦り合わせながらスマホを手繰り寄せ、トーク画面を開く。


『ねえはじめ。起きてる?』
『起きてる。どうした?』
『寒くて寝れない(´・ω・`)』
『待ってろ。毛布持ってく』
『はじめがいい』


テンポ良く返ってきていたメッセージが止まった。毛布を探すなり持つなりして画面を見ていないのか、それとも固まっているのか。

(……困らせたかな)

片眉を下げた微妙な表情を想像しつつ、分かっていながら『できたら添い寝希望です』と追いうちをかけてみる。既読は送った瞬間について、けれど返事より先にノック音が響いた。

「なまえ、入んぞ」って聞き慣れた声に軽く喉を震わせる。おそらく毛布だろうシルエットを脇に抱えている彼の表情は逆光で見えない。ちょっと眩しい。でも。


「お前……急にデレんなよ……」
「ごめん。嫌だった?」
「嫌じゃねえけど……」


扉が静かに閉められた。廊下からの光がなくなり、そもそも暗闇に慣れていた目が予想通りの微妙な顔を捉える。優しいはじめのことだから、朝起こしたくないって思いと、希望を叶えてやりたいって気持ちが反発し合っているに違いない。

上体を起こし「とりあえず毛布な」と差し出された薄手のふわふわを「ありがと」って掛け布団の下に潜り込ませる。ほんのりした冷たさは、すぐに私の体温であたたまった。寝ようと思えば寝れる。でも全然足りない。もっと欲しくって伸ばした手で、はじめの服の裾を掴む。


「嫌じゃないなら一緒に寝よ」
「……朝早ぇぞ」
「いいよ。二度寝するし」
「生活音とかで起こされんの嫌いだって、お前言ってたろ」
「はじめに行ってらっしゃいってしてみたい」
「、またそういう……」
「ダメ?」
「……ダメじゃねえ」


私より二回りくらい大きな手が、頭をひと撫で。流れ込んできた冷気に軋んだスプリング。緩む頬をそのままにいそいそ壁際へ寄り、はじめが隣へ落ち着いたところで、またいそいそ身を寄せる。差し出された腕に頭を預け脚を絡め、じんわりぽかぽか。良い夢見れそう。

「ちょっと狭ぇな」って降ってきた声は、どこか照れくさそうだった。



title ユリ柩




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