すべては君の笑顔のために




彼への誕生日プレゼントを悩んだのは、これで二回目。去年初めて知り合って、夏の終わりに告白されて付き合って。そうして迎えた一回目の十月五日は、残念ながらあんまり素直にお祝い出来なかった。

人気者である侑は学校中の女の子からいろいろもらう。しかも愛想良く受け取る。ファンサービスだとわかってはいても、やっぱり気分は良くないわけで。まだ関係性がステップアップして日が浅いこともあり余裕がなかった私は『私のプレゼントなんかいらんやん』と僻んでしまったのだ。あの時は『お前と他の女が一緒なわけあるかボケ』って真剣に話し合ってくれて、結局丸くおさまった。苦いような甘いような、今となっては良い思い出の内の一つ。

どうやら私は、私が思っている以上に好かれているらしい。そんな、一年かけてようやく浸透した自意識をいつも容易く肯定してくれる侑のことが、今年も変わらず好きだった。


放課後は部活がある。誕生日だろうと何だろうとバレーボールは待ってくれない。おまけに男バレの主将は厳しいらしい。いつも侑がひいひい言ってる。だから邪魔にならないよう、ご飯を終えた昼休みに連れ出した。どこにいても目立つから、なるべく人気のない所。特別教室ばかりが並ぶ三階校舎の踊り場で足を止める。


「お誕生日おめでとう、は、もう朝聞いたで」


何がそんなに嬉しいのか。あるいは期待しているのか。早く寄越せってことか。

向き合った侑の表情筋がにやにや緩まるものだから上手い言葉も探せなくて、早々に紙袋を差し出した。「あけてええ?」って声に頷き、揃って階段に座る。膝に乗せ意外と丁寧に包みをといた指が、四角い箱を持ち上げる。黒いフタにクリアなオレンジ。一瞬放心した焦げ茶色の瞳が、ぱあっと輝く。


「これ欲しかったやつ!」
「ふふ、せやろ。こないだワックス切れかけやって言うとったし、自分ではあんま買わんかなって」
「ほんまそうなんよ。しかもこれちょっと高いし美容室行かな売ってへんし、はー、めっちゃ嬉しい。めっちゃ有難う。さすが俺のなまえ。分かっとう」
「任して」
「大事に使わしてもらいます」
「ぜひぜひ」


湯呑みみたいに両手で持ったまま上から下からスタイリング剤を眺める様は、まるで新しい玩具を与えられた子どものよう。こんなに喜んでくれるだなんて、わざわざ美容室まで足を伸ばした甲斐があったってもの。


「生まれてきてくれて、私と出会ってくれて有難う、侑」


良かった。今年はちゃんとお祝い出来て。言いたいことが素直に言えて。

つい笑顔がこぼれたのも束の間。上機嫌で紙袋へしまった侑に「お礼にちゅーしちゃろ」って、頬やら額やらたくさんちゅっちゅされ、思わず眉間にシワが寄った。さすがに鬱陶しいし化粧が崩れるから、もうちょっと控えめでお願いします。



title 子猫恋
(Happy birthday*)




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