すぐ隣で眠るはじめには、まだ慣れない。
そりゃ何度かお泊まりをしたことはあるけれど、イベントではなく日常の一端となった今、心の準備をするだけの時間が全くないのだ。不意打ちに好きな人。ずっとそんな感じ。心臓が幾つあっても足りない。だから一刻も早く慣れたいのだけれど、なんせ先に惚れた側。手を繋ぐだけで照れくさがっていた頃と比べ、ずいぶん女の子の扱いが上手くなった彼にドキドキしないなんて、到底無理な話だった。
あっという間に目が冴えて少し。ピピピピッと機械音が鳴る。学生時代はスマホを使っていたけれど、マナーモードの関係で鳴らない日があったり、通知音で起きてしまったり。ちゃんと目覚まし時計を買おうねって、二人でいろいろ聞き比べたのは記憶に新しい。お互い寝覚めは結構重要なタイプで、そういった感性が一致するからこそ、結婚生活が大変だと思ったことは一度もない。
はじめの眉間に皺が寄って、私の腰へ乗っていた腕が動く。頭上の棚を探った手は、瞼が薄ら開くとほぼ同時に停止スイッチを押した。
「……なんだ、早起きだな」
ぱちりと目が合うなり、小さく笑ったその表情。寝起き特有のざらついた低音。何度も体感している筈の一つ一つが全神経を惹き付ける。寝ぼけ眼を擦りながら伸びをして、でっかい欠伸。そのくせこっちに向き直り「おはよ、なまえ」なんて目元を緩める。かっこいい。伸びてきた指の背に頬を撫でられ、ごつごつした節がまた、どうしようもなく胸の内を掻き立てる。
やっぱり心臓によろしくない。
そう、確かな幸福に燻されながら「おはよ」って擦り寄った。
title 華
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