挟まれたい




久しぶりにお邪魔した宮家の玄関は、相変わらず『男の子が住んどー家やなあ』って感じだった。似たようなスニーカーが散らばっていたり、壊れた傘が脇に刺さっていたり、下駄箱に馴染みのバレーボールが挟まっていたり。全部二つずつあるのがまた面白い。


「今日両方おらんから気にせんでええで」
「先リビング行ってクーラーつけとって」
「んー」


階段を上がっていった二人の声に返事をし、言いつけ通りリビングに入って電気と冷房をつける。テレビの前に鎮座する四人がけのふかふかソファは、良く宮家で遊んでいた小学生の頃から私のお気に入りだ。

遠慮なく真ん中に腰を下ろし、好きなだけ背凭れに埋まる。間もなくして戻ってきた治は息を吐くように笑って「なんやデジャヴやわ」と隣に座った。治の体重分だけソファが沈み、体が傾く。広いんだからもっと空けて座ればいいのに、自然と引っ付いた肩から伝わる温もりが、ふつふつ懐かしさを掻き立てた。


「私もデジャヴやわ」
「昔っからよう埋まっとったもんな」
「好きやからね」
「俺が?」
「ソファが」


悪戯に細まった瞳へ、ふふんと口角を上げてみせる。さすがに誤魔化されへんで。

「そら残念」なんて、ちっとも残念そうじゃない声で呟いた治の頭が左肩に乗ったところで、ドタドタ階段を下りる足音がした。扉が開いて飛んできたのは、笑い声。


「何イチャついとんねん。俺もまぜてや」


今度は右側。たぶんお風呂を沸かしに行っていたのだろう侑が、ぼっふり座る。やっぱり自然に沈んだ体重分、治ごと体が傾いた。


「サンドされたら暑いんやけどー」
「冷房下げるか?」
「え、まさかのそっち?」
「当たり前やろ」
「俺らが離れるわけないやん」
「うわーめっちゃ愛されとー」


幼い頃よりずっと逞しくなった侑の肩へ凭れつつ、アホな会話に三人揃って笑う。

部活の休憩中や昼休みなんかもそう。ほんのたまにこうして引っ付いてきては、なんとも気の抜けた言葉を交わす。中身なんて全くないし、お互い用事があるわけでもない。ただなんとなく安心する。なんとなく落ち着く。そんな、言ってしまえば息抜き程度のくだらないひと時。でも、この時間があるからこそ穏やかな日々を過ごせているような気もする。友達とか仲間とか好きとか嫌いとかそんなものじゃなくて、もっと深いところで体温を共有するような、家族みたいな感覚が心地いい。侑も治も、きっとそう。


「なあ、お腹すかへん?」
「めっちゃすいた」
「いっつもご飯どないしてんの?」
「おかんが作り置きしてへん時は出前頼んどーけど」
「今日はなまえの飯食いたい気分やな」
「えー。ほな作るから二人とも手伝ってくれる?」
「おん」
「ええで」


ずり下がった侑の頭が、右肩にこてん。全く動く気配のない重みに苦笑すれば、キッチンの方で軽快なメロディーが鳴った。

『あと五分でお風呂が沸きます』

我が家と違って、宮家の給湯器リモコンは喋るらしい。ハイテク。まあ丁度いい。どっちか先にお風呂へ行かせて、片方ずつ手伝ってもらおう。それまであと五分、ゆっくりしよう。


【夢BOX/宮兄弟に挟まれたい】




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