気の強い女の子




『一緒に飯食お』って誘った昼休み。お弁当持ってわざわざ俺の席まで飛んできたなまえはご機嫌さんで、えらい可愛ええなあなんて思いつつ一緒に教室から出ようとした時。ぴたり。踏み出したちっさい足が不意に止まった。あかん。そう直感したはええけど、時既に遅し。背後を振り返ったなまえの口から、ガラの悪さを前面に押し出したような「は?」が出てもうた。

原因は単純明快。なまえのことをよう知らんクラスのアホが、こそこそ陰口たたいとったから。まあ陰口言うても、俺らが釣り合うてへんとか趣味悪いなあ程度。別に食ってかかるほどやない。俺はともかくなまえが悪く言われんのはそら腹立つけど、まあ、こいつのええとこも可愛ええ顔も教えたないし、他人さんに使う時間が無駄やとも思う。変に構った方が図に乗るかもしれん。


間違っても噛み付いていかへんよう、バチバチモードの腕を掴んで名前を呼ぶ。


「そこの自分、今何つった?」
「行くでなまえ」
「もっとデカい声で言うてみぃや。じっくり聞いたろやないか」


あかん。いっこも俺の声届いてへん。

仕方なしに、アホ二人を睨んどるその腰を抱き寄せる。俺の右側。小脇にすっぽりおさまった体躯をそんまま引っ付かせて、廊下に出た。ほんまは抱っこしたっても良かってんけど、こないだ恥ずかしいって怒られたから自重する。


「……サム」
「ん?」
「何で止めたん?」
「まあええやん。言いたい奴には言わしといたら」
「腹立たんの?」
「立つけど、お前とおる時間使いたない」
「んん」


唸り声はめっちゃ不服そうやけど、取り敢えず俺のシャツを握る手も「そんなん言われたら好きが勝つやん……」って妙な葛藤に悶々としとー顔も、全部素直で可愛かった。




【夢BOX/気の強い女の子と治くんのお話】




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