男前女子




見た目は可愛ええ。普通の女子って感じ。高校生らしく化粧っ気もそこそこある。背もそんなデカないし、ほっそく見える首なんかは簡単に折れそうや。

ただ、性格がめちゃくちゃ似合てへん。

見た目に一切そぐわんサッパリサバサバを具現化した挙句、心臓に毛ぇ生やしたような女。グループ行動は滅多にせんし、嫌味陰口が聞こえようもんなら真っ向から「喧嘩売っとんやったら買うけど」って突っ掛かる上、何でかいっつもレディーファーストを崩さへん。重そうな荷物運んどったら、自分のが体ちっさても『持とか?』って声掛けてくるし、勝手に閉まるタイプの扉に差し掛かろうもんなら先行って開けたまんま待っとる。

しかもこないだ、たまたま部活休みに日直が被った日。小学生ん頃のカードゲーム話で意外と盛り上がってもうて、気ぃ付いたら外真っ暗。俺が「そろそろ帰らなあかんな」って切り上げたら、まさかの「送ってこか?」って言われた。

いや、俺男やで?
結構ガタイもええで?

びっくりしてフリーズしてもうた俺が気ぃ取り直す前に自分で気付いて「ごめん。失礼やったな」ってごっつ申し訳なさそうに謝られたけど、いや、そうとちゃうねん。お前送られる側やろ。何でそんなサラッと男前やねん。

まあええわ一緒に帰ろかって揃って校門くぐって帰路について、そこでもまた何でか車道側歩きよる。めっちゃ自然と、無意識やったら逆に怖いくらいのスマートさや。


いやお前ほんま、可愛らしい顔して何なん。ギャップにも程があるやろ。仮に痴漢出たら俺のこと守れるんかって思ったあん時が、たぶん人生のターニングポイントやった。他が途端にじゃがいもに見えて、気付いたらみょうじだけが俺の視界ん中でちゃんと女子やった。




「ほんで?」
「せやから気になんねん」
「や、うん。それさっき聞いたで。宮くん私のこと気になってくれてんねやんね?」
「おん」
「うん。理解しとぉよ。ほんで?」
「ん?」
「だから何?付き合いたいってこと?」
「……ええんかお前、そんなん言うて」
「え、何で?」
「俺めっちゃ期待すんで」
「したええやん」
「え?」
「え?」


偏光ラメが瞼でキラキラしとる不思議そうな瞳を見下ろす。夏休みやっちゅーのに俺は部活、みょうじは委員会で登校しとって、たまたま自販前で居合わせた八月のくそ暑っつい真っ昼間。


「え、待って。みょうじって俺んこと好きなん?」


ただただ困惑して全く考え無しのド直球を投げた俺に、普段通り汗一つかいてへんちっさい顔が傾く。


「好きって言うか、宮くんスポーツ万能でかっこええし話しやすいし顔ええし」
「おい最後」


黙って聞くつもりが思わず突っ込んでもうたら「ごめんごめん」ってくすくす笑われた。何がおもろいねん。こっちは思考回路ショート寸前や。


「むしろ宮くんが私でええんやったら、是非お願いしますって感じやね」
「ほんまやな?夢とちゃうな?」
「頬っぺ抓っちゃろか?」
「おま……そこは嘘でも『夢ちゃうよ。宮くんおもろいこと言うねえ』って微笑むとことちゃうんか」
「えー。そんな私がええん?」
「嫌やけど」
「嫌なんかーい」


やる気の一切感じられへん突っ込みに気が抜ける。まあええわ。夢とちゃうんやったらこの際何でもええ。くすくす笑うみょうじが無駄に楽しそうなんがちょっと嬉しい俺は、たぶんもうあかん。惚れ込んどる。


「ほんなら、今から俺の彼女ってことでええんやな?」


再確認の意を込めて、低い位置にある顔を覗きこむ。平然と頷いたみょうじは、にやりと口角を上げて「宮くんこそ、今から私のってことでええんよね?」なんて。

ああもう。そういうとこやぞなまえ。
その余裕、絶対崩したるからな。



【夢BOX/宮侑と男前女子】




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