カキ氷食べて頭キーン




妹が持って帰ってきた四角い箱には、ペンギンの形をしたカキ氷機がちょこんと収まっていた。どうやら町内会の福引きで当たったらしい。正直このご時世に手動だなんて有り得ないけれど「彼氏にでもあげれば?私そういう体育会系の知り合いいないし」と差し出されてしまっては、突っ返すわけにもいかない。

結局言われた通り、なんなら蝉の大合唱に背中を押してもらいつつ、お付き合い中であるはじめの家にお届けした。ら「お、じゃあ作るか」と案外喜んでくれた。何でも嬉しそうに受け取ってくれる寛大さったらない。その上「今母ちゃん買い物行ってっからなまえも食ってけよ」なんて、さり気なく私の緊張までもを逃がしてくれる優男っぷり。いや、思ったことがそのまま口に出るタイプのはじめに、きっとそんな意図は微塵もないのだろうけれど、とにかく良く出来た彼氏だと思う。


「シロップある?ごめん、買ってきたら良かったんだけど……」
「気にすんな。多分どっかにある」
「どっか……」
「ちょい探すわ」
「あ、じゃあその間にペンギン洗っとくね」
「おう。刃のとこ危ねーから気ぃ付けろよ」


何でもない“いつも通り”を装った返事は、ちゃんと上手に言えただろうか。はじめにとっては何気ない言葉であろうひとつひとつが、どうにも鼓動を乱していけない。気軽に会いに来ることが許される“彼女”って立ち位置は、なんともくすぐったい。


シンクを借り、箱から出したばかりのカキ氷器を綺麗に洗って拭く。ついでにお皿をセットし終えたところで、丁度苺味のシロップとおまけの練乳を探し当てた彼は嬉々として氷を流し込み、大きな手でペンギンの頭をしっかり押さえながらレバーを回した。


ガリガリゴリゴリ――、

ささがき状に削れた氷が、硝子の器へ積もっていく。中央ばかりが盛り上がってしまわないよう、ほんのり青が透けるそれを回すのは私の役目。もちろん、途中でシロップを挟むことも忘れない。

ガリガリゴリゴリ、ガリガリゴリゴリ――。

氷を追加した二皿目ともなれば、もう慣れたもの。特に意識せずともお皿は回せて、ぼんやり広がった視界に筋の浮いた男の腕が映る。途端に心臓がどくんと跳ねて、慌てて指先に一点集中。危ない危ない。ついこの間、別れ際に少しだけぎゅってしてくれた時のことを思い出してしまった。




「んなモン?」


程なくして止まったはじめに頷く。「ありがと。超一瞬」と微笑みかければ「だべ?」なんて得意気な笑みが返ってきた。うん。嬉しそうで何より。シンクへ座ったペンギンを横目に、仕上げの練乳をかける。スプーンを添えてソファーに座って、さあいただきます。


「ん、っ〜〜……!」


瞬間、キーンとこめかみを駆け抜けた冷ややかな痛みに、思わず唸る。ああ何だっけこれ。アイスクリーム頭痛だっけ。急な刺激を受け止め切れない脳が痛みと誤認するとか、血管が伸縮するとか、何かそんな感じだった気がする。

隣のはじめもどうやら結構キたらしく、顰めっ面でこめかみを押さえていて。顔を見合わせるなり「ゆっくり食べねえとダメだな」って、揃って苦笑した。



※夢BOXより【岩ちゃんとカキ氷食べて頭キーンとなりたい】



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