身軽な運命同体




這い上がってくる冷たい空気に縮こまる。廊下側の一番後ろ。窓際よりは幾分マシなはずなのに、どうしてこんなに冷えるのか。昨日までのポカポカ陽気はどこへやら。カーディガンの隙間から吹き込む風が熱を奪う。お願いだからカムバック。祈ったところで、残念ながら夏は来ない。

大人しくじっと耐えていれば、席をはずしていた鉄朗が戻ってきた。きっと購買にでも行っていたのだろう。目が合うなり瞠目し、前のイスを引いて座った。


「お前上着は?」
「クリーニング。お母さんがもう着ないでしょって」
「あー。最近あったかかったしな」
「ほんと……寒くなるとか聞いてない」


はあ、と漏れた溜息が、机の木目に沈みゆく。なんとも弱々しくて情けない。でも今回ばかりは許して欲しい。だって、だってさ。ちゃんとハンガーにかけておいたんだよ。まだ着るかもしれないからって言ったのに、コートと一緒に出しちゃうなんてあんまりだ。


「もうジャージ着ようかな……」
「その上に? 変わるか?」
「ないよりマシ」
「待って、そんなさみぃの?」
「寒いよ」


答えつつ、机の上へ両手を翳す。擦り合わせても無意味なくらいに冷えていて、最早感覚すらない指の先は氷といっても遜色ない。たぶん元来の末端冷え性が拍車をかけているのだろう。

おそるおそる触れた鉄朗は「うわ冷たっ」と、分かりやすく驚いた。けれど離しはしないまま、大きな両手で丸ごと全部包み込む。真冬を宿す指先が、じんわりじわじわ溶けていく。


「女の子が体冷やしちゃダメでしょーが」
「ぐぅ……」
「ちょっとなまえさん、ぐうの音出てますよ」


しゃーねえな。

鉄朗は、そう苦笑混じりに手を引っ込めて、あったかそうなブレザーの袖から片腕ずつ引き抜いた。まさかもまさか。貸してくれる気だ。すぐに察して慌てて遠慮したけれど、問答無用で肩へとかけられるなり、そのまま赤ちゃんよろしくくるまれてしまった。

デカい。ぼそぼそ。
最早着られているどころじゃない。

ご丁寧にボタンまで留めてくれたわけだけど、サイズのせいか殆ど意味をなしていない。身長はもちろんさることながら結構体格もいいんだな、って実感する。まあスポーツマンだし、そりゃそうか。試合中、赤いユニフォームから伸びる筋肉質な腕や脚を思い出す。すっかり見慣れてしまったものでもう意識する機会は随分減ってしまったけれど、肩幅からしてしっかりがっしり男の子。


「いいの?」
「おー。ちゃんとあったまれな」


柔くゆるんだ口元に「ありがと」って微笑みかえし、余った袖をこっそり握る。良く知る温度と残り香が、体の芯まで滲み込む。


title suteki




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