慈愛の枕でおやすみ




嫌な汗がじんわり滲んで、皮膚を覆っていく。暑い。暑いのに、足の先は冷たくて寒気がする。緩和されない鈍痛も、張り付く服も、胸元から下腹にかけてを覆う妙な不快感も、全部きもちわるい。

もう何年も経験しているっていうのに未だ慣れないこれは、月一でやってくるあいつのせいだ。この時ばかりは、自分の性別が本当に嫌になる。まあでも、今日が日曜日で良かった。


そう無理やりポジティブに考えて、布団の中で丸くなる。スマホが振動していたけれど、確認する余裕はどうしたって持てなくて、なるべくお腹が動かないよう息を詰めながら、ただ浅い呼吸を繰り返す。微かに聞こえた控えめなノック音にも、当然答えられるわけはなくて。けれど布団越しに届いた声は、随分と聞き慣れたものだった。


「なまえ、入るよ」


いつも通りの落ち着いた低音。匂いや音に対して過敏になっている時でも、決して雑音にはならない静かな声。彼を好きになった要因の内のひとつ。


「なまえ…?寝てる……?」


さっきよりも近くで響いた窺うようなそれに、布団から顔を出す。ちょっと動いただけで吐いてしまいそうなくらい調子が良くないけれど、せっかく来てくれた恋人の顔を見たかった。あわよくば名前を呼んで、手を握ってもらいたかった。そうすれば、この痛みも気持ち悪さも全部マシになるような気がして、でも、お願いしようと開いた口から声は出なかった。お腹が痛い。鈍痛の波が押し寄せると同時に、喉が詰まる。

カーテンが光を遮る暗がりの中。人使くんの心配そうな顔がぼんやり視認出来て、申し訳なくなる。寒い。暑いのに、寒い。


「その……女子日ってやつで、合ってる?」


やっぱり心配そうな声色に、心の中で謝罪しながら頷く。私の頭をひと撫でした人使くんは「ちょっと待ってろ」と、部屋を出て行った。扉の開閉音にまで気を遣ってくれつつ、直ぐに戻ってきたその手には小さなペットボトルとビニール袋。


「お湯入れてきた」
「ん……ごめ、ね」
「気にしなくて良いから、無理するなよ。声出すのも辛いって分かってる」


ああ、なんて良く出来た彼氏なんだろう。布団の中へ潜り込ませてくれた温かいペットボトルをお腹へ当てながら、お言葉に甘えて心中でお礼を述べる。「薬は飲んだ?」って問いかけに頷けば「じゃあ、効いてくるまでの辛抱だな」って、手を握ってくれた。せめて私がマシになるまでは、ずっと傍に居てくれるらしい。

申し訳なさやら有り難さやら痛みやら好きやら、なんだかいろんなものが溢れて、上手く頭が回らなくて。そうしてやっぱり何も言えないまま、せいいっぱい握り返した人使くんの手へ額を寄せた。



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