敵連合の女性




見た目で判断して絡んでくるバカを永眠させつつ、適当にパトロールを済ませる。黒霧さんの作ったブルーハワイが飲みたい、なんて思いながら帰ったアジトには、残念なことに誰もいなかった。仕方なくシャワーを浴びて、自室へ戻る。閉めたはずの鍵が開いているのは、大方奴の仕業だろう。

電気をつければ、案の定大きなクッションを抱えて私のベッドに埋もれている荼毘がいた。投げ出された長い脚が、もぞりと動く。


「荼毘、起きて」
「ん"……なまえ…?」
「上着着たまま入るなっていつも言ってんでしょ」
「そうカッカすんなよ……老けんぞ…」
「上着」
「分かったよ」


眉間にシワを寄せ、もぞもぞ袖から抜かれた上着は、手を差し出す前に床へと落とされた。ちゃんと専用のハンガーも抗菌スプレーも用意してあげているっていうのに、全くこの面倒くさがりは手が掛かる。何度注意しても聞かない上に、人の気遣いは綺麗に素通り。そのくせ、自分の都合だけはしっかり押し付けてくるのだから呆れる。


溜まった息を体外へ逃がし、放置された可哀想な上着は拾ってやった。


「ところでそれ、どうしたの?」
「ああ、これか?」


彼の上半身いっぱいくらいはあるだろうか。白くて四角い、大きなクッション。

ぽふぽふ叩いて示す荼毘を尻目に、抗菌スプレーを振りかけながら頷く。少し勿体ぶられたものの、買ったのだと教えてくれた声に眉が寄った。私の物じゃないとは思っていたけれど、なるほど。余計な物を人の部屋に増やさないでいただきたい。


「お前が抱かせてくれねえからついな。サイズ感ピッタリだろ?」
「ちょっとディスらないでくれる?そんな小さくないしふかふかじゃないし」
「ふっ、確かに触り心地はカリカリだな」
「いつ触ったのよ変態」
「見りゃ分かる」


吊り上げられた口角が、なんとも小憎たらしい。

百歩譲って合鍵もベッド無断使用も許してあげているが、抱き枕になれってセクハラ紛いな要求だけは、ここ半年くらい拒否し続けていた。最近はあまり言わなくなったものだから、てっきり諦めたとばかり思っていたけれど、どうやら違ったらしい。押せ押せで靡かないからちょっと引いてみた、くらいか。嫌な男だ。


そもそも一緒に寝てくれる女なんて幾らだって作れるだろうのに、どうして私なのか。その継ぎ接ぎだらけの見た目さえ許容出来れば、何ら問題のない優良物件だ。背が高くて筋肉もあって、お金はないけれど顔が良い。体のいい尻軽くらい、きっとホイホイ釣れる。

手頃で後腐れがないとでも思われているのか。大いに心外だ。いくら今をときめく敵連合の一員とは言え、私だってただの女である。誰でもいい男に抱かせてやるほど安くはないし、悔しいことにうっかり本気になってしまう可能性だってあるのだから怖い。こんな奴が好きなんて冗談じゃない。目を覚ませ私。


「いい加減来いよ。何もしねえって」
「そういう問題じゃない」
「へえ」
「ってか私も早く転がりたいんだけど」
「どーぞ?」
「……」
「顔」


ああ、これは面白がられている。
喉を鳴らして笑う姿に、再び溜息がこぼれた。




※夢BOXより【敵連合の女性と荼毘】




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