手のひらで遊ばせて




黒板を眺めていたら、いつの間にか文字が消えていた。というか、授業が終わっていた。たぶん、気付かない内にうっかり寝てしまったんだろう。とりあえず授業中の記憶がない。


「ってなわけでノート貸して欲しいんだけど」
「は?ンで俺が貸さなきゃなんねえんだ。頭沸いとんのかカス」


ううーん。随分と辛辣な暴言はともかく、ごもっともなお返事をどうも有難うかっちゃん。

分かってるよ。居眠りした私が悪いし、わざわざかっちゃんが貸す義理もないっていうのは、とーっても良く分かってるんだよ。でもね、かっちゃんさ。かっちゃん以外に借りたら怒るじゃん。この前仕方なく出久に借りたけど、怒鳴り散らしながら『俺に言えやクソが!』ってノート投げつけてきたじゃん。そのくせお願いは聞き入れてくれないとか、どんな嫌がらせだ。かっちゃん風に言うなら、殺すぞてめえって感じだ。まあそんなお下品なこと、間違っても言わないけど。


「大体、配分も考えねえでクソ遅くまで自主練してっからンな事になんだろが。しっかり雑魚の自覚しとけや雑魚」
「殺すぞてめえ」
「あ"?」


おおっと口が滑ったごめんごめん。嘘嘘。殺さない殺さない。空耳空耳。気のせいだよー。

って言うか、誰にも話してない自主練のことを知ってくれてるくらいには私のこと好きなんだね。こっそり心配しててくれたのかな。うんうん有難う。かっちゃんの優しさは、昔から微生物並に分かりにくいもんね。


「かっちゃん好きだよ」
「ンだ急に。気持ち悪い」
「凄い好き。めちゃくちゃ好き。出久より好き」
「クソナードと比較してんじゃねえ」
「そのクソナードくんは快くノート貸してくれるんだけどなー」
「……チッ」


大きな舌打ちと共に、不満気な顔が逸らされる。ごそごそ机の中を探ったかっちゃんは「ほらよ」と、さっきしまったノートを叩きつけるように出してくれた。「汚しやがったら殺す」って凄い睨まれたけど、フル無視しつつ「有難う。好き」って受け取ったら押し黙った。やっぱりかっちゃん、私のこと好きだよね。面白いから、告白してくるまで放っておこう。



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