出し遅れたラブレター
文字をなぞる眼球に合わせ、長い睫毛が震える。熱心に補足要項を書き留める指は細く白く。けれどその爪先は無惨にひび割れ、ろくな処置すらなされていない。
爆豪の眉間にシワが寄る。
「それどうした」
「それ?」
顔を上げ、ぱちりと瞬いたパールブルー。硝子玉のように薄く透き通る彩色へ、ひどく不機嫌な赤が映える。
勉強見てやるって言い出したのはかっちゃんなのに、なんでこんなに顰めっ面なんだろう。
首を傾げたなまえは「ん」と顎で示された自身の手へ視線を落とした。ささくれが目立つ荒れた指先。ひび割れた自爪には、赤黒い塊がこびりついている。ペンを置き「これ?」と翳してみせれば、眉間のシワが更に深まった。
「わぁってんなら手当てしろや」
「あー……しようと思ったんだけど寝ちゃって。朝起きたら固まってたから、もう良いかなって」
「良かねえわアホ」
お決まりの舌打ちが鼓膜を突く。「化膿したらどうすんだ」と溜息混じりに腰を上げた彼は勝手知ったる棚から救急箱を取り出し、今まで座っていた向かい側ではなく、すぐ隣に胡座をかいた。
「おら、貸せ」
差し出された厚い手のひらへ、大人しく傷だらけの手を乗せる。ここで拒めば、ただでさえ斜めである臍をもっと曲げてしまうことくらい、かれこれ十年以上の付き合いであるなまえは良く分かっていた。
消毒液の冷たさと、ぴりぴりした痛み。
条件反射で引き攣った皮膚に目敏く気付いた爆豪が「動かすな。我慢しろ」と咎める。それでも血の塊を溶かす手付きは丁寧で優しく、刺激しないよう細心の注意を払いながら傷を窺う瞳は真剣そのもので。
こういうギャップがずるいんだよなあ。
熱く脈打つ鼓動を誤魔化すため、なまえはそっと天井を仰いだ。
title 子猫恋
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