ルビーを窺う夜




録画しておいたヒーロー情報番組を再生する。今回の特集は"速すぎる男"。相変わらず、大きくて派手な羽がとっても綺麗だ。さすがビルボードチャート三位の人気ヒーロー。


「かっこいい…」
「あ?」


シャワーから出てきた勝己は画面を一瞥し、それから、背後のベッドへ腰を下ろした。


「ホークスか」
「うん」


私の体を挟むように置かれたその脚へ頭を預ける。「まだ濡れてんじゃねえか」って舌打ちが降ってきたけれど、退けとは言わなかった。

皮膚から伝わる筋肉の揺れ。聞こえてきたのは、コンセントを挿す音。ついで無骨な手に髪を乱されたかと思えば、ドライヤーの温風がテレビの音を遮断した。


視界で揺れ動く髪がすごく邪魔だけれど、乾かされるのは嫌いじゃない。こういう時の勝己の手は、普段の粗暴な言動と違って、なんとなく優しい。

好きな体温。好きな人。同じボディソープのいい香りと、確かな安心感。心地よさ。そんなものに促され、瞼が落ちていく。だんだん、視界が細まっていく。


「おい、頭上げろ」
「んー……」
「おい。寝んなコラクソなまえ」
「んんんん…っ」


一切容赦のない貧乏揺すりに、脳がブレる。おかげで沈む寸前の意識はちゃんと保たれたし、言われた通り頭を上げることも出来たけれど、なんだかなあ。

勝己らしさが詰まった起こし方に、つい笑ってしまう。もしかしたら、ちょっと拗ねているのかもしれない。乾かし終わったら、一応言ってあげよう。"勝己の方がかっこいいよ"って。



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