ティータイム




グラスの中で溶けだした氷が、音を立てる。

カウンターに頬を預けながら俺の指を触っているみょうじは、変な女だった。平和ボケした人間共が行き交うデパートの中、擦れ違い様に俺の腕を掴んで「死柄木くんだ」と笑ったあの時から既に、得体の知れない違和感は存在していたように思う。


「お前死にたいのか」
「どうして?」
「知ってるだろ。俺の個性」
「五指で触れたものが崩れるんだっけ」


俺の片手で遊んでいるその手を止めることなく、平然と言ってのけたみょうじの真意は読めない。わざわざ忠告してやったというのに、節を撫でたり指先をつついたり、爪の形をなぞったり、不意に絡めたり。

不快感はなかった。妙に冷たい体温が、およそ人のものとは思えないからだろう。人間に触られているよりかは、氷にでも遊ばれているような、妙な感覚。みょうじの空気感は無機物に近かった。


「うっかり死ぬぞ」
「ふふ」


緩やかな笑みを湛えた口元から、溜息混じりに目を逸らす。何がそんなに可笑しいのか。自分の身などどうなってもいいと言わんばかりの態度は、決して気のいいものではない。引っ込めようとした人差し指は、あろうことか捕らえられた。


「いい加減にしろよお前」
「私が崩れちゃったら嫌だから?」
「調子に乗んな」
「あ、ちょっと。親指引っ込めないでよ」
「うるさい」


橙色の中で浮いている氷が、カランと音を立てる。全くいつまで居座るつもりなのか。黒霧がいれてやっていたオレンジジュースの量は、未だ変わっていない。



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