鮮やかに色付け




「ねえ、あれ! ダイナマイトじゃない!?」


勝己と出掛けた先で、そんな声を耳にすることが増えた。わらわらとファンらしき市民が集まってくることも珍しくなく、凄い人気なんだなあってどこか他人事のように思う。

当たり構わずキレ散らしていた学生時代に比べ、サインこそ応じないものの、ちびっ子の頭を撫でてあげる成長っぷりは、素直に微笑ましい。


そんな感じに今をときめく若手プロヒーローである勝己には、もちろんマスコミもご執心だったりする。爆心地特集でも組むことが出来れば、きっと出版社共々ほくほくなのだろう。

ちなみに勝己はと言うと、活躍を報道するのは勝手だし取材も受ける。ただし、プライベートについては一切邪魔をするなスタンスである。これにはたぶん、二割くらい私に対する配慮が含まれている。遊園地デートでパパラッチに囲まれ、渋々お家デートに変更したことは記憶に新しい。

あの時は、私のフルネームから勝己との関係まで根掘り葉掘り聞かれて、とても大変だった。「うるっせぇな彼女だっつっとんだろ! 分かったらとっとと失せろ!!」って勝己が怒鳴ってくれなかったら、きっと一生帰れなかったことだろう。もちろんそのせいで『爆心地、まさかの熱愛発覚!?』なんて、しょうもない記事が出回ったのは言うまでもない。恥ずかしい。

まあ、こそこそする必要もなくなったし別に良いんだけど、心配して電話をくれたお茶子や切島くんには、申し訳なさしかない。




「彼女来たから」


目が合うなり、そう背中を浮かせた勝己に、絡んでいた女子高生達が残念そうな声を上げた。迷いのない足取りが、胸を掻き立てる。「ファンサしなくて良いの?」と聞けば「アホか」と一蹴され、手を繋がれた。

視線が刺さるけれど、ちょっとした優越感に浸れるひと時。


街中では、いつもこうして触れていてくれる。手を繋いだり、肩を抱かれたり。たぶん、私に被害が及ばないようにだろう。付き合いたての頃はぎこちなかった一つ一つが、極自然な当たり前として存在している気恥ずかしさ。大きな手を握りなおせば、優しく握り返してくれる。そんな些細なことに、まだ慣れない。


「何照れとんだ」
「照れてないし」
「ハッ、顔赤ぇぞ」
「……勝己がデレデレで嬉しいの」
「やめろきめえ。誰がデレデレだ」


容赦のない物言いにすら頬が緩んでどうしようもない。慌てて引き締めながら身を寄せる。けれど満足気に息を吐いた勝己が「今日は俺ん家でゆっくりすっか」なんて言うものだから、再びだらしなく緩んだ。



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