偶発的な昼下がり




教室に戻れば、いつもの男子メンツが腕相撲大会を開催していた。

力的には、やっぱりパワー系の切島が強いらしい。お前もやるか、と言われたけれど、残念ながら勝てる気が微塵もしないので、眺めるだけに留めておく。何せ開催場所の隣が私の席である。見る気はなくても、自然と目に入るのだから仕方ない。

「もう一回だもう一回!」と盛り上がっている声をBGMに、次の授業の準備をする。間もなくして帰ってきたのは、ポケットに両手を突っ込んだ暴君。


「なあなあ、爆豪もやろうぜ!」
「あ?」
「ほら座れって!今んとこぶっちぎり切島が強くってさ〜」
「気安く触んな死ねカス」


相変わらずの暴言をお見舞いした吊り目が、上鳴の手をぱしりと払う。それでも負けが怖いのかと煽られれば「怖くねえわ!俺が負けるわけねえだろクソが!」って怒りながら、ちゃっかり勝負席に座るのだからちょろい。

そんなこんなで袖を捲った爆豪と切島の真剣勝負が、瀬呂の声と共に始まった。


教室の一角。
唸り声をあげながら頑張る二人。を応援する外野。と、その様子を生あたたかく見守る更に外野の図が、瞬く間に出来上がる。

そんな中、何の気なしに視線が向かったのは爆豪の腕で。女にはない浮き上がった筋や血管に、思わず見惚れた。普段はワイシャツの下に隠れてしまっているけれど、やっぱり鍛えてるんだなあ。そう頬杖をついて、気を緩めたのがいけなかった。


「……かっこいい」


ぽそり。

つい心の声が洩れたその瞬間、全員の顔が一斉にこちらを向く。真剣勝負をしていた筈の二人までもが目を点にしていて、とても視線が痛い。

居た堪れずに肩を竦めると、瞬きを数度繰り返した爆豪が「は…?」と、訝し気に復唱した。


「……ごめん、聞かなかったことにして」
「いやいやいや無理でしょ」
「何々!?何がかっこいいの!?」
「誰が、かもしれねえぞ…!」


どどどっと前のめりに押しかけてきた数多の声に溜息を吐く。ちょっと興味津々すぎではなかろうか。腕相撲はどうした君達。

一番味方になってくれそうな梅雨ちゃんに助けを求めてみたけれど「ごめんなさいなまえちゃん。私も気になるわ」と追い打ちをかけられてしまった。逃げ場がない。勘弁してほしい。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。全員の前で、爆豪の腕がかっこいいですなんて言えるわけがない。どんな罰ゲームだ。絶対燃やされる。

早く先生来ないかなあ、なんて思いながら頑なに黙秘権を行使していれば、とても良いタイミングで扉が開いた。


「…お前ら何してる。さっさと席につけ」


顔を出した相澤先生が神様に見えたのは、ここだけの話。



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