裏腹シンプトム




デリカシーの欠片もないかっちゃんにブタだのデブだの言われ続けて早半年。大好きなお菓子もケーキも全部セーブして、本気で運動に励んだ私の努力が、ついに報われた。体重計が壊れていなければ、これで八キロは落とせたことになる。鏡に写る自分は顔周りも脚もスッキリして、我ながら綺麗なくびれだ。胸がないから魅惑ボディとまではいかないし、脚の長さと身長的にモデル体型でもないけれど、かっちゃんを見返すくらいには十分なれたと思う。

というわけで何週間かぶりにA組の寮内にお邪魔して、かっちゃんの部屋に来てみたのだけれど、何だその何とも言えない顰めっ面は。私めちゃくちゃ痩せたんですけど。ちょー頑張ったんですけど。


「どう?スリムになったでしょ?」
「………」
「ちょっと、リアクションぷりーず?」
「………骨と皮だな」
「おん?」


まさかのなかなか酷い感想にぴくりと口角が引き攣る。骨と皮って。それが頑張った彼女に対して開口一番に言うセリフですか爆豪さん。しかもかなりリアルな顰めっ面。てっきり天邪鬼な性格上『ハッ、それで痩せたつもりかよ』とかなんとか鼻で笑いながら煽られると思っていたのに、ちょっとやめて欲しい。


「彼女がデブとかブタとか嫌でしょー?」
「ガリもねぇわ」
「ガリじゃないし。立派なくびれを見せてしんぜよう」
「オイやめろ、そこで捲ろうとすんな。中入ってドア閉めれ」
「お邪魔しまーす」
「たく…」


通されるままにスリッパを引っ掛けて上がりこむ。もう一度「見る?」とTシャツの裾を掴めば、眉を寄せたかっちゃんの無骨な手が腰に触れた。ラインをなぞる指が、存外優しくてくすぐったい。見んでも触りゃ分かるってことなんだろうなあ、なんて遠くを見ながら好きにさせていると、溜息が聞こえた。こてん、と肩口に預けられたのは額で、相変わらず気合いの入った髪が皮膚に刺さる。かっちゃんの方からくっついてくるなんて珍しい。出久と喧嘩した時以来じゃないだろうか。暫く会っていないから寂しかったのかな。

どうしていいのか分からないまま、とりあえず背中をぽふぽふ叩くと、再び落胆したような溜息とともに重みが増した。


「か、かっちゃん…?」
「……何痩せとんだクソなまえ」
「えぇ……だってデブとか言われたくないし」
「てめえはデブで良いんだよクソが」
「理不尽」
「何キロ落としやがった」
「八キロくらい。血と汗と涙の結晶だよ」
「死ね」
「ひどい」


せっかく頑張ったのにこの言われ様。あんまりにも程がある。それでも、デブ呼ばわりされなくなったことは素直に嬉しい。かっちゃんのこの反応からすると、痩せる前の私をそれなりに気に入っていたんだろうけれど、罵られるのはもう嫌だった。たとえクソが付いていたって名前で呼んで欲しいし、好きな人には可愛いって言ってもらいたい乙女心も一応持ち合わせている。それに、いくらシュッとしたからと言って痩せ細ったわけではない。ちゃんと健康的に落としたし、筋肉も前よりはついた。そう伝えても、かっちゃんの眉間のシワは一向に取れなくて。


「せめてあと三キロ太れ。じゃねえと折る」


顔を上げて私を真っ直ぐに見たルビーは、乱暴な言葉とは裏腹に、少し心配の色を宿していた。折れそうとか体調崩しそうとか、たぶんそんなことを気にかけての"太れ"なんだろうと察する。ようやく嬉しさが湧いて、思わず頬が緩んだ。



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