ふいうち




メイン道路沿いに出来た、新しいパンケーキ屋のホームページを眺める。

オープン記念につき、今なら十パーセントオフ。そんなコメントと共に載せられている写真は、どれも美味しそうで魅力的だ。ふわふわ生クリームと苺もいいし、チョコソースとバナナの組み合わせも美味しい。焼きリンゴに紅茶生地、なんてのも気になる。

誰か誘おうか考えて、真っ先に浮かんだのは、色素の薄いツンツン頭。
甘い物が苦手な彼も、卵焼きやハムがのったパンケーキなら食べられるだろうか。男性も入りやすい木目調の店内なので、浮く心配ももちろんない。もし良いよって言ってくれるなら、そのままデートがしたかった。


思い立ったが吉日。
丁度エレベーターから出てきた姿に、腰を浮かせる。


「勝己くん、勝己くん」
「うるせえな、聞こえとるわ。腕引っ張んじゃねえ」
「ここ行きたい」
「あ?」


文句は言うものの、見えやすいように画面を傾ければ素直に視線を落としてくれるのだから、なんだかんだ優しい人だ。絡めた腕はそのままに、画面を指でスクロールする。


「チリソースとか、ご飯系もあるんだって」
「……こないだ出来たとこか」
「そう。よく知ってるね」
「知ってるも何も、昨日からモブが騒いでんだろが」
「え、そうだっけ?」
「そうなんだよ。んとに周りの話聞いてねえ奴だな」
「だって興味ないんだもん」


呆れを含んだ視線には笑っておいた。人の話を聞かないタイプなのは、小学生の頃から自覚している。

そんなことより、同じ画面を覗いているからだろう。いつもよりちょっとだけ近い距離に、心臓がドキドキして落ち着かない。眉間にシワさえなければ、とても綺麗な顔立ちをしている勝己くんからは、いつもほんのり甘い香りが漂う。


「よかったら今日行かない?」
「行かねえ」
「一生のお願い」
「てめえの一生は何回あんだ」
「んー……百回くらい?」
「死ね」


相変わらずの暴言は、彼女になったからといって控えられることはないらしい。

くあ、とこぼされた欠伸が、自然と移る。
もしかしたら、食べに行くこと自体が嫌なわけではなくて、まだ眠いだけなのかもしれない。それならそれで、また日を改めればいい。幸い今日は比較的穏やかな心情のようだし、少し食い下がってみよう。

そう、彼の腕に身を寄せる。鬱陶しそうなしかめっ面に心が折れそうになって、けれど、振り払われはしないことに安堵した。「まだ何かあんのか」と溜息まじりに吐き出された声は、やっぱり眠そうで。


「来週でもいいんだけど、だめ?」


赤い瞳を見上げながら、こて、と首を傾げてみせる。
以前、上鳴くんが言っていた”男が断れないグッとくる仕草”というやつだ。

もちろん実践するのは初めてだったけれど、どうやら上手く出来たらしい。一瞬見開いたルビーを泳がせた勝己くんは「ちゃんと予約しとけボケ」とそっぽを向いた。心なしか耳が赤いように見えるのは、きっと気のせいじゃない。



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