恋色シンパシー




皆の輪の中なら抜け出てきた焦凍に、顔を上げる。
どうしたの。何かあったの。そう声をかける前に隣へ座ったかと思うと、寄り添うようにくっつかれた。少し寂しくなったのか、構って欲しくなったのか。二色の髪をさわさわと撫でてやれば、満足したようにどこかへ行ってしまった。

焦凍は時々、猫みたいな気まぐれ加減で甘えてくる。
普段がクールなものだから、それが無性に可愛くて、随分前に射止められてしまったこの心は揺さぶられっぱなしだった。だから仕返しの意味も込めて、私もたまには甘えるようにしている。


「焦凍」
「?」


移動教室からの帰り。皆の目がないところで呼びとめる。振り返った焦凍の宙ぶらりんな手をこっそり繋げば、色違いの双眼が丸められた。
してやったり。なんて嬉しくなりながら指を絡める。ごつごつとしたそれは、もうすっかり男の人の手で、なんとなく気恥しい。

そう言えば最近、一緒に出掛けていないことを思い出す。焦凍は自主練以外にも家のことがあるので、基本的に忙しい身だ。あまりわがままは言えない。きっと気を遣ってくれたのだろう。前に一度だけ、お見舞いにと誘われたけれど、親子水入らずなせっかくの時間を邪魔したくはなかった。


きゅ、と握り返された手。
頬が緩んで、愛しさが募る。

焦凍も私と同じくらい、ドキドキしてくれていたらいいのになあ。あまり表情が変わらないものだから悔しい。
それでも、喜んでくれていることは、優しい温度から伝わる。焦凍が私と同じくらい、大切に想ってくれていることも同様に。


「暇な時でいいから、また遊びに行こうね」


彼の重荷にならないような言葉を紡ぐには、十五年と少しの間に吸収した語彙だけでは足りなくて、いつも迷う。甘えるって意外とむずかしい。そんなこと「ああ」なんて軽く頷いた焦凍は、気にもしていないんだろうけど。

手を引かれるままに、廊下を歩く。


「行きてえとこでもあんのか?」
「んー……特には…」
「じゃあ散歩にでも行くか」
「そんなんでいいの?」
「?」
「や、それじゃ焦凍がつまんなくないかなって」
「そんなことねえよ。俺はなまえがいればいい」


窓から舞い込んだ風に、さらさら靡く髪。
小首を傾げた焦凍の口元が、ふ、と緩んだ。



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