よしよしされたい




広い背中に手を伸ばす。

愛しい人。いつでも会いたい人。何でもいいから触れたい人。理由なく傍にいてほしい人。世界でたった一人、心が勝手に求めてしまう恋しい人。


「かっちゃん」
「てめえ、くそデクと同じ呼び方すんじゃねえって前も言っ――」


ぎゅう。


「……」


振り向いた勝己に間髪入れず抱き着けば、余程びっくりしたんだろう。手も足も口も機能停止。すっかり固まってしまった分厚い体へ、お構いなしにぎゅうっと縋る。

いろいろ限界だった。学校とかクラスとか、将来とか人間関係とか。大人にならなきゃって思えば思うほど摩耗する心が今にも擦り切れそうで。英雄を志す集まりであるヒーロー科と違い、いろんな動機を持った生徒で形成されている普通科は結構面倒くさくてしんどい。もう崖っぷちギリギリ。アポイントもなしに部屋まで押しかけたのは、つまりそういうこと。勝己がいないと、呼吸さえままならなかった。


「ンだ、珍しいな。てめえからくっついてくるなんざ」
「でしょ。嬉しい?」
「何かあったんか」
「まさかのスルー」
「答えろや」
「勝己こそ」
「あ?」
「私にくっつかれて嬉しい?」
「…………別に」


下唇を突き出しているような、ぶっきらぼうな声。でも知ってる。照れ隠しだって。きっぱり否定しないのは、それなりに喜んでいるからだって。ただ表に出すことがとっても下手なだけ。

心と体がじんわり温もっていく。勝己の体温に包まれ、とくとく混ざる鼓動。太い首筋へ顔を埋めればお風呂上がりだろう石鹸の香りが鼻腔を抜け、くしゃくしゃ髪を掻き撫ぜられた。心地よさが安堵を呼ぶ。


「で?てめえは答えねえつもりかコラくそなまえ」
「んー、何もないよ。ちょっと疲れただけ」
「電池切れか」
「そんなとこ。だから充電させて」


もっと撫でて。そう催促しながら、頭の丸みへそえられたままの手に擦り寄る。無言で、さっきよりは幾分か優しくよしよししてくれた勝己は、珍しく「泊まってくか?」と言った。自分の寮に帰るため、明日はいつもより早起きしなくちゃいけなくなるけど、うん。そうしたい。一晩充電したら、また頑張れるよ。



(Special Thank′s.ハルちゃん)




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