体温は嘘をつかない




寒い。暖房をいれたって、ヒーターをつけたって、胸の内側が、どうしたってあたたまらない。毛布にくるまっているのに、足先も指先も冷たいまま。

冬の夜は、ひとりが寂しくっていけない。


ベッドから抜け出し、毛布を羽織ったままスリッパを引っ掛けて、男子棟へと歩く。本当はダメなんだけれど、バレなければ問題はない。バレたらどうなるかな。相澤先生のことだから、除籍になるんだろうか。反省文では済まなさそうだなあ。

そんなことを考えながら『爆豪』と書かれた札がかかっている扉をノックする。
向こう側から返事はなく、さっき送ったラインにも既読はない。もう眠っているのかもしれない。それならそれで別に良い。眠りを妨げるつもりは毛頭なかった。

大人しく帰ろうと息を吐いた時、微かな物音が鼓膜を震わせる。淡い期待とともに顔を上げれば、緩やかに扉が開いた向こう側に、爆豪くんがいた。


「起きてたの?」
「てめえのせいで今起きたわクソカス」


聞き慣れた低音は少し掠れていて、眠そうにあくびをこぼす。「入れや」と腕を引かれて足を踏み入れれば、背後で扉が閉まった。相変わらず片付いている部屋に、無駄な物は何もない。

電気をつけた彼は顎をしゃくって、私が持ち込んだ、人をダメにするクッションを示した。座れってことだろうか。あんなに文句を垂れていたのに、捨てずに置いてくれていることに、じんわりと胸が熱を孕む。


「で?こんな時間に何の用だ」
「……」
「俺を起こしやがったくせに何もねえわけねえよな?あ"?」


ぷちぷちと血管の切れる音が聞こえてきそうなほどの形相で右手をわななかせる姿に、肩を竦める。寒かっただけとは到底言えそうにないけれど、困ったな。それ以外の理由なんて思いつかない。怒らせたかったわけじゃないのに、どうしよう。

冷たい手足を、きゅっと丸める。目敏く気付いた彼は、大きな溜息をひとつこぼす。ついで伸ばされた無骨な手は、私の体を雑に手繰り寄せた。


「たく、冷てえ体しやがって」


倒れ込んだ先、耳元で聞こえた低音と、ふんわり香る甘い匂い。爆豪くんの体温と穏やかな心音に包み込まれ、強ばった肩がゆっくり絆されていく。
暖房やヒーターなんかより、よっぽど私をあたためてくれる体は、以前抱き締めてくれた時よりも逞しくなっていた。


「起こしてごめんね」
「謝んなうぜえ。凍死されるよかマシだわ」
「凍死…はしないよ、さすがに」
「うるせえ。いっつも氷みてえな体温してんだから分かんねえだろ」
「それって、いつも心配してくれてるってこと?」
「調子乗んなカス。ぶっ殺すぞ」


照れ隠しなのか、そうじゃないのか。いまいち判別のつきにくい暴言に、大人しく口を閉じる。

広い背に手を回して首元に鼻先を埋めれば、くすぐったそうに身じろいだ後、優しく、けれど強く、抱き締め返してくれた。




back