ふわり、夢心地




※映画版のおはなし




初めて遊園地に来た時のような、それはそれはふわふわとした心地でアトラクションを楽しんだ夜。
着慣れないバイカラーのドレスに袖を通し、ヤオモモちゃんに横髪を編み込んでもらって、今日のために買ったティントリップで彩ってから、パーティー会場に向かう。テレビで見たことのあるプロヒーローが、わんさかと目の前にいる今、抓った頬っぺはちゃんと痛かった。


「何しとんだ」
「かっちゃ、……かっちゃん?」
「あ?」


後ろから降ってきた声に振り向いて、首を傾ける。
声で判断してしまったけれど、見慣れないスーツ姿に、一瞬人違いかと思った。なんて言ったら怒るだろうから「スーツなんだね」と無難な言葉を選ぶ。

相変わらず自信たっぷりだけれど、五割増でかっこいい。制服でも何でも着崩してしまうから、かっちりしている姿を見たのは七五三以来かもしれない。


「そのスーツかっちゃんの?」
「違え、切島のだ。てめえは?」
「私のー。可愛いでしょ?」
「はっ、馬子にも衣装だな」
「えー、せっかく頑張ったのに」


ちょっと残念だけれど、褒めてくれるとは微塵も思っていなかったので、いたし方ない。
気を取り直したところで照明が落とされ、オールマイトの挨拶が始まった。

それにしても、切島くんがこんなにセンスのいい正装を持っているとは思わなかった。失礼ながら、彼の部屋を見た限りでは、全くイメージがない。
昔から何でも着こなすかっちゃんだけど、本当に良く似合っていると思う。


少し見すぎただろうか。

視線を上げた先のかっちゃんは、訝しげに眉を寄せていた。ジロジロ見てんじゃねえ、とでも言いたげだけれど、オールマイトが話している間は黙っているつもりらしい。顎をしゃくって壇上を示されたので、大人しく従った。


ウェイターさんから渡されたグラスを音頭とともに軽く掲げ、乾杯を終える。
もしかしてお酒なのではと期待したそれは、残念ながらただのりんごジュースで。飲み終えれば、どこからともなく現れたウェイターさんが引き取ってくれた。パーティーって凄い。


「なまえ、皿」
「あ、うん」


雰囲気に圧倒されている私と違って、かっちゃんは平然としていた。突き出されたのは、少し大きくて真っ白なお皿。どうやら食事はバイキング形式のようで、ずんずん進む広い背中に、慌ててついていく。
真っ白なクロスが輝くテーブルには、色とりどりの美味しそうな料理。器用にトングを使いこなし、お皿に盛っているかっちゃんの裾を引っ張る。


「それ私も欲しい」
「はあ?自分で入れろや」
「かっちゃんのが上手いんだもん」
「ったく。んとに俺がいねえと何も出来ねえな」


舌打ちとともに文句を垂れつつも、ちゃんと入れてくれる優しさに頬が緩む。おまけに、よそってくれたサラダから、私が苦手な茄子を抜いてくれる男前っぷり。昔からずっと一緒にいるから、たぶん、かっちゃんは無意識なんだろう。
くるくると綺麗に渦を巻くパスタから、いい匂いが漂う。刺激されたお腹は、すっかりぺこぺこだ。


「お、爆豪とみょうじじゃん!」
「切島くん。皆もやっほー」
「やっほー!やっぱり爆豪くんと一緒やったんやね」
「チッ、セット扱いしてんじゃねえわ」


わちゃわちゃと集まった皆で手分けして料理を取り、テーブルにつく。無理やり引っ張ってきた駄々っ子かっちゃんは、私と切島くんで挟むと、不機嫌ながらも落ち着いてくれた。


皆おめかししていて、いつもとは違った光景だけれど、いざ話し出すと教室にいるみたいで、変な緊張が薄れていく。

お水取って、と言えば「自分で取れやカス!」と目を吊り上げながら取ってくれるかっちゃんも、それを見て「何だかんだみょうじには甘いよなー!」と笑う皆もいつも通りだ。
私達の笑い声につられたのか、他のプロヒーローに囲まれていたオールマイトも、少しだけ顔を出しに来てくれた。



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