六度目の冬




冬が好きだった。
人より体温の低い私が一番過ごしやすくて、静かで、夜が早くて、人肌が恋しくなる。

雄英高校を卒業して早三年。触れるために理由を要する私たちにとって、とても優しい季節がきた。




「仕事大丈夫だった?」
「ん」
「ごめんね、急に誘って」
「別に。てめえこそ大丈夫なんか」
「うん。今日は早く終わる日だったの」
「そか」


イルミネーションが輝き出した午後七時。私のワガママを聞いて、仕事終わりの時間をあててくれた勝己くんは、僅かに目元を和らげた。

早くも事務所を立ち上げ、今をときめくプロヒーローである彼のスケジュールはなかなかタイトだけれど、私の為にあけてくれたらしい。


どちらからともなく繋いだ手から、じんわりと広がる温もり。「相変わらず冷てえ手だな」と言うその低音は、久しぶりに会ったからか、少し緊張しているようだった。付き合いたてでもないのに、こういうところが可愛いと思う。


「勝己くんは温かいね」
「普通だろ」
「そうかな。緑谷くんより温かいと思うけど」
「オイ待て。いつくそデクの手なんざ握ったんだ」
「内緒ー」
「吐けやコラ」
「やーだー」


くすくす笑えば、赤い瞳が細められる。
大人になった勝己くんは、あの頃みたいに怒鳴らなくなったし、手も出なくなった。その代わり、不機嫌そうに眉を寄せて、分かりやすくぶすくれる。きっと今も、マスクの下で口を尖らせているのだろう。


「ヤキモチ?」と聞けば「違ぇし」なんて強がるくせに、握っている手には、ぎゅっと力が込められる。
たったそれだけのことで私を幸せにしてしまえるこの人は、存外嫉妬深い。同窓会に行くと言えばついてくるし、会社の飲み会があると言えば迎えにくる。
心配しなくても勝己くん以外にうつつを抜かすことなんて絶対ないのに、私の愛情は上手く伝わっていないらしい。

私だってべた惚れなんだよ。

悔しいから言ってやらないけど、心の中で呟きながら身を寄せる。気付いた彼は、歩幅を狭めた。


「どっかでご飯食べる?」
「あー…、なまえの飯が食いてえ」
「えー。私の家散らかってるんだけど」
「俺ん家くりゃいいだろうが」
「食材ある?」
「誰に言うとんだ。あるわ」


ふ、と笑った横顔に、私の頬も緩む。

忙しいながら、ちゃんと自炊をしているらしい。元々私より料理が上手だった彼のご飯は、学生時代からハズレがなかった。今だって、私より上手いかもしれない。
いっそ今日も作ってくれたらいいのに、と思うけれど、疲れているだろう彼に無理は言えなかった。それに、素直な時くらい甘やかしてあげないと、また拗ねてしまう。


「じゃあ勝己くん家ね」
「ん」


どうやら機嫌はなおったらしい。
頷いた彼の雰囲気が、少し和らいでいることに嬉しくなる。

私が明日休みだって言ったら、どんな顔するんだろうなあ。そんな悪戯心は、まだ隠しておくことにした。




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