君の傍で息をする




全然学生らしくない雄英にも、学生っぽいイベントが、ちょこちょこ存在する。

相澤先生のはからいで、ヒーロー情報学の授業を少しだけ早く終えた午後。黒板に書かれていく数字をぼんやり眺める。
女の子達がウキウキと肩を寄せあっていたり、峰田くんが主にヤオモモの近くを望んでいたり、デクくんが祈っていたり。今日も和やかなA組は、極一部を覗いて、席替えに心を踊らせていた。


「また一緒だろうね」


斜め後ろの爆豪に話し掛けると、相変わらずの舌打ちが寄越される。

この男とは中学からの腐れ縁で、不思議といつも席が近い。前か後ろか、今みたいに斜めか。
おかげさまで最近じゃ「ん」と手を出されるだけで、何を貸して欲しいのか分かってしまう。彼も同様にそうだと思う。
便利といえば便利だし、気持ち悪いといえば気持ち悪い関係だけど、そんなに嫌いではない。


「次は前後がいいね」
「ハッ、相変わらず変わってんな」
「微妙な距離より良くない?」
「他のモブよかマシ程度だろ」
「へえ。私はモブじゃないんだ?」
「うるせえブス」


口が滑ったって感じだろうか。
思わず笑ってしまえば彼の目が吊り上がったので、慌てて前を向いた。

回ってきた箱から籤を引いて、皆が番号を確認し終わったところで移動する。窓際の一番後ろ。一番眠りやすい位置にほくほくしていると、やって来たのはやっぱり爆豪で。私にガンを飛ばしてから、どかりと前に座った。


「なまえちゃん、また爆豪くんとやね」


一列挟んだ向こう側のお茶子ちゃんが朗らかに笑う隣で、デクくんが苦笑いをこぼす。ほんと、縁ってこわい。


「大丈夫だよ。仲良しだから」
「あ"?」
「ごめんて」


地を這うような低音とともに、それはそれは鋭い目付きで睨まれてしまったけれど、私の机に頬杖をついた爆豪は、満更でもなさそうだった。






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