幸せの狭間




いつもの駅。いつものホーム。
いつもの制服に、いつものイヤホン。音楽プレーヤーから流れる音も、やっぱりいつもと変わりはない。

ぼーっと向かいのホームを眺めながら焦凍を待っていれば、耳障りのいい低音が小さく私の名前を呼んで、とんとん、と肩に軽い衝撃。


「お疲れ様」
「なまえもお疲れ」


音楽を止めて、イヤホンをはずす。
焦凍と別々の高校に通っている今、傍にいられる時間が少しでも増えるようにと、時間が合う日は一緒に帰るようにしていた。おかげで、あまり長く会えなくても、心の距離を感じることは殆どない。

隣に並ぶ大きな手に触れれば、いつも通り、自然な動作で繋がれる。焦凍は私のことをよく知っていた。


「大変そうだね、雄英」
「まあ…そうだな」
「無理はしないでね」
「ああ、そんなに心配しなくても大丈夫だ」


見上げた先の瞳が、優しく細められる。

分かっている。焦凍は強い。そんなこと、もっとずっと前から知っている。それでも、まだ高校一年生の身で敵との戦いを余儀なくされる立ち位置にいる以上、不安は拭えない。姿を見ることさえ出来なくなる日が来るかもしれない恐怖は、常に私の傍にいる。


「そういや、来週から寮に入ることになった」
「……また急だね」
「悪ぃ。一緒に帰れなくなる」
「焦凍が謝ることじゃないよ」


俯いた彼の手を握り直す。
会えなくなるわけじゃない。一緒に帰れなくなるのは寂しいけれど、焦凍の身が少しでも安全になるなら、その方がいいに決まっている。


「私も雄英に入れば良かったな…」
「それはダメだ」
「どうして?」
「なまえには家に居てほしい」
「…待って、何の話?」


少し考えてみたけれど、上手く言葉が理解出来ない。焦凍の話は、たまにとんでもないところへ飛躍する。
ヒーローになったらお互い忙しくなるって言うなら分かるけれど、ええと。


「家に居てほしいの?」
「ああ」
「誰の?」
「俺達の」
「……うん?」
「ん?卒業したら、一緒に住むんじゃねえのか」


思考が止まる。
一瞬、何も聞こえなくなって、だんだんと喧騒が戻ってくる。

視界に映る、きょとんとしたままのオッドアイは私を見つめていて、ホームに滑り込んできた電車の音が、空気を震わせた。



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