言葉になるまで




私と歩く時、爆豪くんはいつも車道側にいてくれる。皆でどこかに向かう時も、私が一人でいると傍に来てくれるし、梅雨ちゃん達と話が弾んでいる時は後ろで見守っていてくれる。そんな些細なことが、とても嬉しい。

今だってそう。買出しについてきてくれた上、ジュースの入った重い袋を持ってくれている。


「ごめんね、重くない?」
「別に。こんなん重い内に入んねえわ」
「力持ちだね」
「嘗めとんのか」
「褒めてんの」


ふん、と鼻を鳴らしながらも、彼が歩くのはやっぱり車道側で、つい頬が緩んでしまう。
彼なりの気遣いは言葉に出ない分、態度に大きく表れる。テンションが上がっている時は放ったらかしだけれど、それ以外は大体かまってくれるのだ。こんなところまで天才マンなんだから底が知れない。


「いつも有難う」
「……おう」


少し遅れて届いた、ぶっきらぼうな返事。彼にしては珍しく、今日は素直に言葉を受け取ってくれることが多い。いつもの喧嘩腰と極端な短気さえなければ、きっとモテモテなんだろうなあと想像しかけて、なんとなくしっくり来なかった。やっぱり一匹狼みたいな方が似合うかもしれない。

見上げた先の空は、だんだんと暗くなってきていた。綺麗な橙に、深い紺色が滲んでいる。少し先に見えた寮には、既に明かりが灯っていた。きっと共用スペースには、お腹をすかせた皆が待っているだろう。早く帰ってあげないと、と思う反面、もう少しだけ爆豪くんと一緒にいたいような気持ちもあって。


「みょうじ」
「ん?」


不意に呼ばれ、隣を見上げる。

随分穏やかな赤い瞳と交わった視線。
自然と足が止まって、けれど、バツが悪そうに眉を寄せた彼は「何でもねえ」と顔を逸らした。


「言うこと忘れちゃったの?」
「るせえ。やめただけだ」
「変な爆豪くん」
「ぶっ殺すぞ」


いつも通りの暴言に思わず声を出して笑えば、小さく舌打ちが寄越される。溜息と共に「気付けやクソ…」とこぼされた声には、扉から出てきた皆に気を取られて、返事が出来なかった。



back