陽だまりの中で




開けている掃き出し窓から、ふわりと心地いい風が舞い込んでくる。皆まだ眠っているのだろう。
日曜日のお昼時。ハイツアライアンスはとても静かで、あたたかな陽射しが部屋を包んでいた。


読み終わった本を傍らに置いて、手触りのいいツンツンとした髪を撫でる。もう一時間は経っているだろうか。
膝の上で気持ち良さそうに寝息を立てている爆豪くんは、まだ起きない。いい加減、足の感覚がなくなってきたのだけれど、幼さの滲む寝顔が可愛くて起こせないでいる。

そろそろ起きてくれないかなあ。
手の届く範囲にある本は、もう読んでしまった。

すっかり冷えている紅茶を飲んで、少しカサついた頬をつつく。普段、まじまじと見ることのない綺麗な顔立ちを見下ろすのはとても新鮮で、睫毛が細いことを初めて知った。気を付けていないと、すぐに抜かれてしまいそうなほどの白い肌が羨ましい。


風に揺れたカーテンが浮いて、陽射しが彼の顔を照らす。
途端にぴくりと震えた瞼。眉間にシワが寄せられ、小さな子どものように背中を丸める仕草に、思わず笑ってしまう。


「ちょっと眩しいね」


伸ばした手で、ゆっくりゆっくり窓を閉める。定位置へと落ち着いたカーテンが陽射しを遮れば、爆豪くんの眉間からシワが消えた。
相当お疲れなのか、本当に良く眠っている。夜に眠れていないということもないだろうのに、私の膝はよっぽど寝心地がいいのか。嬉しいけれど、そろそろ足が限界を迎えそうだ。


「…勝己」


頭を撫でながら、愛しい名前を紡ぐ。

いつも苗字だけれど、どうせ起きないなら、少しくらいは許されるだろう。本当は前々から呼んでみたかった。きっと何気ない会話の中で口にしたって、爆豪くんは許容してくれると思うけれど、なんとなく気恥ずかしさが邪魔をする。いっそ、慣れるくらい呼んでおこうか。眠っている今の内に。

もう一度「勝己」と呟いてみる。

このまま爆豪くんが起きなければずっと練習していられるのにって気持ちとは裏腹に、足はどんどん感覚を失っていくのだから困る。
思わず苦笑がこぼれれば、大気が揺れるとともに一瞬だけ震えたその瞼が、薄く開かれた。

ぼーっとした赤い瞳。
いつもより穏やかなそれが、ふっと笑う。


「寝てる時に呼んでんじゃねえよ。ずりぃ奴」


寝起きのせいか、少し掠れている声。
私の頬をなぞる指先はあたたかく、とても優しい熱を残して離れていった。






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