白日を垂らす朝を待つまで




先にベッドへ入った勝己は夢の中だろうか。ノブを下げた先、寝室の電気は既に消えていた。スマホ画面で床を照らしつつ、音を立てないよう摺り足で進む。そうっと片膝を乗り上げながら、夏用の薄い掛け布団を持ち上げた。

もう残暑も終わる頃。そろそろ衣替えがてら冬用をって思いつつ未だ先延ばしているのは、毎晩こうして湯たんぽのような勝己と一緒に眠るから。個性の影響か元々か、彼の基礎体温は人より少し高い。お眠の時は尚更、私にとっての微熱以上になる。


色素の薄い髪、無防備な項、広い肩幅。

暗闇の中で鮮明になっていく輪郭は、びっくりするくらい幸福ばかりを連れてくる。くっつくと起きてしまうだろうから手は伸ばさない。触れなくたって温かい。お揃いの香りに包まれて、同じ空間のすぐ隣を許されて、子守唄は微かな寝息。

シーツに横たわる線をスマホに挿し、ゆったり落ち着く。勝己の傍らは、いつも心地がいい。日々どうしても避けられない仕事だったり人付き合いだったりで嫌なことがあっても、自然と全部リセットされる。明日も私は私でいいんだって気になれる。


「……ん"……」


不意に、小さな唸り声が静寂を震わせた。身じろいだ勝己が振り向いて、薄ら開く瞼。睫毛の間から覗いたルビーとぼんやり目が合う。やがて「さみぃ」と呟いたかと思えば、日に日に逞しくなっているような頼り甲斐のある腕に優しく抱き寄せられた。顕著な体格差は言わずもがな。彼の首元へ顔が埋まり、全身すっぽりおさまる。そもそもが低体温の私を抱いたところでちっとも温かくならないだろうのに、どうもこれで満足らしい。

擦り寄せられた脚に脚を絡めれば、珍しく後頭部を撫でられた。たぶん“良い子”って意味。たとえばお座りが出来た子犬を褒めるような、そんな手付きだった。


「毛布でも出そうか?」
「……いらねえ」
「私でいいの?」
「ん。なまえ」
「ん?」
「……」


ぎゅうっと抱き締められ、空気さえも追い出して、隔てるものは寝巻き代わりのTシャツくらい。

これは寝惚けてるなあ。

呼応する二人分の鼓動を、まるで心臓が二つあるみたいだと愛しく感じながら「おやすみ」って囁く。今日も有難う。明日も好きだよ。そう、彼の腕の中で微睡みに揺蕩う。



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