わたしのお気に入り




彼の瞳が好きだ。
口程に物を言う、綺麗な瞳。脳裏に焼き付く鮮烈な赤色。丸まったり、細まったり、笑ったり、泣いたり。そんなに感情表現は豊かでないけれど、長く傍にいるにつれて、微細な変化がわかるようになった。


「何見とんだ」
「爆豪くん」
「喧嘩売っとんのかコラ」


口元をひくつかせた彼の瞳が細められ、眉間のシワが深くなる。今日も今日とて、その綺麗な双眼を眺めているだけなのに、真正面から見つめ続けられるのは居心地が悪いらしい。そういえば、前に食堂で同じように向かいから見ていたら「食いづれえ」と頭を鷲掴みにされたことがあった。

仕方なく身を引いて俯くと、大きな溜息が鼓膜を揺らす。


「毎日毎日よく飽きねえな」
「だって綺麗だし」
「嬉しかねえわ」
「じゃあかっこいい」
「たりめえだろが。誰だと思ってやがんだ」
「私のダーリン?」
「燃やすぞくそカス」
「ひどい」


事実なのに、と息を吐く。
告白に応えてくれたはずの爆豪くんは、部屋に行けばそこそこ私の好きにさせてくれるのに、学校内では全然甘やかしてくれない。恥ずかしいのか照れているのか、この三ヶ月間様子を窺ってみたけれど、そういうわけではなさそうだった。

まあ、人前でいちゃつきたいわけではないから、この際それはどうでもいい。ただ、普通に眺めるくらいは許して欲しいと思う。それに、こそこそ見るくらいなら堂々と見ろやって言ったのは爆豪くんの方だ。


「ダメかぁー…」
「そもそもなんで俺だ。赤目くらい他にもいんだろ」
「爆豪くんの目は他と違うの」


理解出来ないというように顰められた端整な顔へ手を伸ばす。なめらかな頬に手のひらを添えれば、驚いたように丸められる赤い瞳。

私にだって理由はわからない。昔からキラキラしたものは好きだけれど、こんなに惹かれたのは生まれて初めてだった。確かに赤い目は珍しくないし、他に綺麗な目をした人だってたくさんいる。でも、私の心を掴んで離さないのは、強い意志が灯ったこの赤色だけ。


「爆豪くんは、私にとって特別なんだよ」


目元をなぞる。
てっきり払われるかと思っていたけれど、くすぐったそうに瞳を細めた彼は「気安く触んな」と言いながら、瞼を閉じて許容してくれた。どうやら"特別"という言葉に弱いらしい。これからは上手いこと言葉を翳して、ゆったり眺めようと目論む。






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