もう少しだけ、好きにさせて




無骨な指が、私の指を撫でていく。

サリサリと器用に爪やすりを動かして形を整え、また別のやすりで磨いていく勝己は、さっきから真剣そのものだ。甘皮の処理までしてもらった私の爪は随分ピカピカになっている。この間、ネイルサロンに行こうかとボヤいたからだろうか。何が彼を動かすのか、付き合って一年経つ今も良く分からない。

それにしても、真正面にいる勝己を眺めるだけというのは少し退屈だ。相変わらずの整った顔立ちは、最初の頃こそ傍にあるだけでドキドキしたけれど、今となっては見慣れてしまった。


「……チッ」


視線が煩わしかったのか、目つきの悪い赤い瞳が、睨むようにこちらを見る。

私の手を離した彼は、丸めていた背中を伸ばしてからベッドに座り直した。「なまえ」と呼ばれ、示されたのは膝の上。今日は甘やかしモードらしい。気が変わらない内にと腰をおろせば、お腹に回された腕に引き寄せられて背中が密着する。肩に乗せられたのは顎だろうか。勝己の体温は、いつも少し高くて、心地良い。

渡されたリモコンでテレビをつけると、丁度バラエティー番組が映った。勝己の体温に包まれて、爪を綺麗にしてもらいながら面白いテレビを見られるなんて、今日はとっても良い日だ。

肩の力を抜いて全体重を預ける。
耳に触れた吐息に、勝己が笑ったことを知る。


「満足したかよ」
「そりゃもう。凄い幸せ」
「たく、つまんなそうな顔で見やがって」
「だって勝己しか見るものないんだもん」
「穴あくわ」
「恥ずかしかった?」
「ねえわ燃やすぞ」


物言いは荒いのに、仕上がったピカピカの爪へオイルを塗る手付きはひどく優しいのだから笑ってしまう。

塗り込むように指先を覆ってマッサージをしてくれた手を、今度は私が握る。ほんの一瞬ぴくりと伝わった振動に、また、頬が緩む。驚いたのか動揺したのかは分からないけれど、なんだかんだ私に甘い勝己は、嫌がることもなく、そのままでいてくれた。


鼻腔をくすぐるのは、ネイルオイルのサッパリした柑橘系の香りと、勝己の仄かに甘い香り。テレビ音に消されることのない二人分の鼓動が、薄い皮膚を通して伝わり合う。好きだなあって感じる瞬間は、きっと勝己も同じで。こうして幸せを積み重ねていくことが、これからも二人で一緒に出来ればいいと思う。



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