きみに囚われる




変な女だと思う。俺の言動ひとつで、笑ったり泣いたり。そのくせ、俺以外に対する反応はひどく薄い。随分前にその理由を訊ねたが「私の世界は爆豪くんで出来てるから」と、良く分からねえ返事が寄越されたので、それ以上の追究はやめにした。何を聞いても一緒だと思った。

そんな変わったなまえと過ごす時間は、不思議と悪くねえ。どころか、最近では手の届く範囲に居ることが当たり前になってきていて、妙な安心感さえある。


「ねえ、好き」


ふとした瞬間、何の前触れも恥ずかしげもなく微笑む小さな唇。いつもそう。驚く俺を面白がっていると言うよりは、思ったことがそのまま溢れ出たような、穏やかで優しい声色。

なんとも言い難い心地良さが気に食わねえ。言われっぱなしではなく、たまには俺も、なまえを驚かせるような何かをしてやりてえと思う。一番効果的なことと言えば、やっぱり気持ちに応えてやることだろうか。


身を屈め、ほんの仕返しのつもりでその唇を塞いでやれば、瞬時に丸まった瞳の奥がゆらりと揺れた。
俺とは違う、淡い藤色。透き通ったその中に映っているのは、俺ただ一人。それがどうしようもなく、優越的な気分にさせる。


「ば、ばくご、」
「黙ってろ」


珍しく戸惑っている様子が面白くて、もう一度、噛み付くようにキスをする。優しくっつーのは、どうも性に合わなかった。ファーストキスだろうと何だろうと知ったこっちゃねえ。

びくりと跳ねた華奢な肩を抱いて、そのまま腕の中に引き込む。小さく震えている手は、それでも許容するように俺の背中へ回ってTシャツを握るもんだから、柄にもなく、愛しいと思った。



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