なだらか




「爆豪!なんだよあの子ちょー可愛いじゃん!」
「あ?るせえ」


今朝、たまたま駅で会った幼馴染と一緒に歩いている所を見られていたらしい。寄ってきたアホ面に舌を打てば、紹介しろだの狡いだの何だのと騒ぎ出した上に、わらわらモブ共が集まってきやがったもんだから、机をぶっ叩いたら大人しくなった。最初からそうしてろザコが。誰がてめえらに紹介するかよ。


先生の話を聞き流しながら欠伸をかみ殺す。ホームルームってのは学校の中で一番無駄な時間だ。漸く鳴ったチャイムと共に教室を出た。

途中、なんとなく気になってC組の前を通れば、帰宅する生徒で溢れかえる中、そいつはまだ、席に座って窓の外を眺めているようだった。

声を掛けるか、このまま帰るか。
自然と止まった足に違和感を覚えながら、思考を巡らせる。ヒーロー科の生徒が普通科の廊下にいることが珍しいのか何なのか、遠巻きに集まる嫌な視線が煩わしい。見世物じゃねえんだよ、と湧き上がった情動は、けれど、そいつが振り返ったことで鎮火した。


丸まったでかい瞳が、数秒瞬きを忘れた後、慌てたようにカバンを引っ掴む。真正面に立ったなまえは「どうしたの?誰かに用事?」と、少し早口で言った。
困惑している様子が可笑しくて、思わず鼻で笑う。俺が普通科なんぞに用があると思っとんのかこいつは。


「帰んぞ」
「え?」
「早よしろ」
「ちょっ」


心底驚いた様子のなまえを放って歩き出せば、小走りで寄ってきたその細い手に腕を掴まれた。待って、の意思表示か。悪い気はしねえが、止まってやる義理もねえ。

特に何を話すでもなく、校門をくぐって駅までの道を歩く。隣から聞こえてくる足音の間隔がやけに短いので、なんとなく速度を落としてやれば、小さな笑い声が耳についた。


「何笑っとんだ」
「ごめんごめん。優しいなと思って」
「は?いつも優しいだろうが」
「それは盛りすぎ」


盛ってねえわ。
ガキの頃から荷物持ってやったりしてただろ、と言えば「そんなこともあったねえ」とのんびり笑うもんだから調子が狂う。

こいつの傍にいると、なぜか苛立ちが緩和されるのは、昔からだった。


「何で迎えに来てくれたの?」
「…気が向いた」
「えーアバウト」


不満そうに尖ったその唇を摘んでやれば、ぶんぶん頭を振って嫌がる様が面白い。俺の腕を掴む手に込められた力は抗議のつもりだろうが、ちっとも痛くねえ。
そう笑ってやれば、更にぶすくれたなまえに抓られた。



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