もちつもたれつ




俺となまえは、言うなれば腐れ縁だ。
高校からの付き合いだが、個性の相性が良いせいか、何かとセットにされることが多かった。お互い連絡不精なこともあり、プロになってからは忙しさも相俟って疎遠になっていたが、俺が教師として雄英に来た時には既に、彼女は職員室で、悠々とコーヒーをすすっていた。切っても切れない縁だね、と笑った顔は相変わらずの童顔で、そう言えば飛び級合格だったなと昔を懐かしんだことは、今でも覚えている。二年飛び級をしているなまえはまだ二十代だ。おまけに、元々華奢で、何を食っても太らない体質だった。女の平均以下という随分と低い背も手伝って、余計に幼く見えるのだろう。その小柄さを活かした戦闘スタイルは目を見張るものがあるが、今は実戦を控え、ヒーロー情報学教諭に徹しているらしい。テストの点がひどい、と嘆きながら赤ペンを走らせていた彼女は、バツ印だらけの答案用紙をこれでもかと言うほど、俺の顔に押し付けた。


「……痛ぇ。見えん」
「イレイザーなら見えるのでは?」
「無茶言うな」


俺の個性はそういうものではない。

少し顔を引いて、答案用紙を受け取る。バツの数ほど点数は悪くなくそこそこではあるものの、法律に関した部分だけは全不正解だった。ヒーローになる上で絶対的に必要な知識ではあるが、学生の間は身近に感じないからこそ苦手な生徒が多い。


「A組で補習とかしてくれない?」
「俺がか?」
「私でもいいけど、纏められる自信が薄いから見張りだけでもお願いしたいの」


とんとん、と書類を揃えながら溜息をこぼす横顔には、少し疲れが滲んでいるように見えた。ゴリゴリの実戦向き個性ゆえに鍛えたからか、昔から体は強いが、神経は細い奴だったと思い出す。


「プリント類は私が作るから、ちょっと日程合わせよ」
「いつでもいいぞ」
「じゃあ来週の水曜でいい?」
「ああ。生徒にはホームルームに話しておく」
「助かる」
「その代わり、演習に付き合ってくれ」
「えー……私土曜日お休みなんですけど」
「たまには体を動かした方が気も晴れるだろ」


引き出しから栄養チャージのゼリーを出して机に置いてやる。意外そうに目を丸めたなまえは、お礼を言いつつ、備え付けの冷蔵庫へしまっていた。冷えていないと嫌なのか。贅沢め。


「ゼリーついでにもう一個言ってもいい?」
「何だ」
「今猛烈にコーヒーが飲みたい」
「自分でいれろ」


そこまで面倒は見れん。
不満そうにぶすくれたなまえは「ケチ」と引き出しからインスタントコーヒーを出し、なぜか俺の分までいれてくれた。



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