口実




小さく息を吐く。
お風呂に入ってサッパリしたおかげで少しは休まったけれど、今日の晩ご飯のメニューに再び溜息がこぼれた。

大きめの鶏肉とふんわり卵が絡み合った、ボリューム満点の親子丼。

男の子達は嬉しそうにガッツいているけれど、私の胃には大変優しくない。
鶏肉を端へ避けながら、少しずつ卵とご飯を口に運ぶ。元々量を減らしてもらっている筈なのに、まだ随分と多いらしい。
半分も食べきらない内にお腹が限界を訴えて、箸を置いた。

本当は、無理やりにでも詰め込まなければいけないのかもしれない。でも、吸収しきれない分は上から出てしまう体質なので、無理をしてもしなくても結局は変わらないのだ。



水を飲みながら一休みしていると「おいモブ女」と声が降ってくる。振り向けば、カラのお盆を持った爆豪くん。私の位置付けは、入学当初からすっかりモブらしいが、まあ別にいい。
そんなことよりも、またお肉を食べてくれるのだろうか。その視線は、やっぱり鶏肉一直線だ。

もちろん食べてくれるならそれに越したことはないけれど、ただ今日は、食べ物の状態が違う。


「…お箸つけたけど」
「んなもん、胃に入りゃ一緒だろーが」


私の気遣いはご尤もな正論に一蹴されてしまったので、大人しく丼を差し出す。
隣のイスへどっかり座った爆豪くんは、言葉通り全く気にせず、ぺろりと食べてしまった。既に何杯もおかわりをしていたはずなのに、一体その締まった体に入っている胃袋はどうなっているんだろうか。

何はともあれ、綺麗に食べてくれた爆豪くんにお茶をいれてから、二人分の食器を重ねて返却口へ置く。ついでにお手拭きを取って戻ると、既に上を向いていた彼の手のひらに、そっと置いた。満足気に鼻を鳴らした彼は、そのまま手を拭き始める。どうやら私の行動は合っていたらしい。


「爆豪くんはよく食べるね」
「てめえは全然食わねえな」
「うん。残したら勿体ないけどあんまり食べれなくて…。だから、爆豪くんが食べてくれるの凄い助かってる」
「そうかよ」


ぶっきらぼうに返事をした爆豪くんは、丸めたゴミをポイッとゴミ箱に放って、どこかへ行ってしまった。受け答えはしっかりしてくれるものの、相変わらず愛想はないようだった。



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