手と手を合わせて




今日は日曜日で、お休みだ。
普通は土曜日もお休みのはずなんだけど、ヒーロー科にはなぜか授業がある。どこのブラックだ。せめて週休二日にしてほしいなんて思いつつ、朝からダラダラしていたら、いつの間にかお昼になっていた。

そう言えばお腹がすいた、とベッドから抜け出す。スリッパを引っかけて、向かうは一階。きっと皆がお昼を食べにおりてきているだろう。キッチン横の戸棚には、確かカップラーメンがあったはずだった。


「おそよー」
「なまえちゃん、おっそよー!」


元気に挨拶をしてくれたのはソファ席でくつろいでいるお茶子ちゃん。ついで、頬を動かしながらデクくんが手を振ってくれて、飯田くんも何だか変な手の動きで応じてくれる。
食べている最中に喋りかけてしまって、とても申し訳ない。慌てて飲み込もうとする二人には「いいよいいよ。ゆっくりしてね」と笑っておいた。

テーブル席は相変わらず切島くんとかっちゃんコンビが陣取っていて、珍しく上鳴くんの姿はない。ナンパの旅に出掛けたのかな。


「おそよー、かっちゃん切島くんー」
「おー!さては腹減って起きてきたな?」
「うえー、何でバレたー」
「てめえの格好見りゃ分かるわ」
「ぐ…」

かっちゃんの辛辣さが地味に刺さる。
確かに、まだルームウェアから着替えてないけどさあ。

自然と浮かぶ文句は、吐き出さずに留める。せっかく、わりと穏やかな感じなのだ。火の粉は切島くん一直線だろうから、機嫌を損ねるのは避けたい。

ところで、私の求めているカップラーメンはどこだったか。
背伸びをして、キッチン横の戸棚をあける。


「何探しとんだ」
「うわあっ」


何の気配もなく降りかかった声にビックリ。バランスを崩して傾いた私の体を支えたのは、丁度後ろにいた声の持ち主ことかっちゃんで、すっぽりと包まれてしまう。


「っぶねえなクソなまえ」
「びっくりさせるからじゃんかー」


さすがのなまえちゃんも怒るど、と肘で小突く。身長差があるので、肺か胃あたりに当たっているはずなのに、普段から鍛えているかっちゃんは、痛くもなんともないらしい。
軽く鼻で笑われた。ついでに二の腕を掴まれたので、大人しく引っ込めた。
そこは触らないでください。いくら筋肉がついてきたとはいえ、まだ無駄に柔らかいんです。


「で、何探しとんだ」
「カップラーメン」
「自炊しろや。それでも女か」
「めんどいんですーお休みくらいダラダラしたいんですー」
「太んぞ」
「ぐ…」


本日二度目のナイフが胸に突き刺さりそうだったけれど、自炊するイコール痩せるにはならない、と思い直す。
そもそも、自炊するほど食べるわけでもない。コンビニのチキン一個とお茶碗一杯の白ご飯があれば、私のお腹は夜までもつ。
省エネだな、と言ったのは誰だったか。轟くんか。もっと別の言い方だったけれど、小さい頃、かっちゃんにも言われた気がする。あの頃は変わらないくらいだった背丈を思い出して懐かしさに浸りながら、まだ触れ合ったままの背中側へ体重を預けた。


「ねえ、かっちゃんの作ったオムライスが食べたいです」


懐かしいついでに思い出した、とっても美味しいふわとろオムライスにお腹が鳴る。
確か中学生の時だった。熱を出して休んだ私のところへ、スポーツドリンクがたくさん入った袋を提げてやってきた彼が作ってくれたのだ。
まあ、あの時は弱っていたから特別だっただけで、とっても元気な今は自分でやれって怒るかもしれない。

おそるおそる見上げた先のかっちゃんは、けれど、とても穏やかな瞳をしていた。
一つこぼされたのは、短い溜息。


「…中は」
「ケチャップご飯がいい!」
「クソ贅沢言いやがって…」


舌打ちをしながらも手を洗い出したかっちゃんに、驚きと嬉しさがないまぜになる。文句は垂れるくせに、ちゃんと中身はケチャップご飯にしてくれるらしい。
私に合わせた少ない分量に、緩む頬が抑えられない。


「良かったなーみょうじ」
「うん!かっちゃんのオムライス美味しいんだよー」
「マジかよ!俺も食いてえー!」
「あげませんー!」


切島くんとそんな談笑をしながら、イスに座って待つこと十数分。目前へ出てきたのは、あの頃と一緒の、ほかほかなオムライス。上に卵をかぶせただけじゃない、ちゃんと包まれたそれに、心が躍る。

「ケチャップでハートは書いてくれないの?」って言ったら「先に礼言えや」って怒られた。うん、有難うかっちゃん大好き。



back