救世主




爆豪くんの家で過ごした休暇は、とても有意義な時間だった。
私の知らない爆豪くんをたくさん知ることが出来て、家族ってこうだったなあって忘れていた思い出に少し浸れて、思い返してみればあっという間で、でも、爆豪くんは依然として傍にいてくれる。皆に付き合っていることが露呈してからは、心なしか遠慮がない。

私の貧弱な心の内を覆うように、ちょっとしんどいなあって時は必ず手の届く範囲で私を支えてくれる。


「……甘えてばっかりだね」
「は?」
「私」
「んだそりゃ」
「ちょっと自己嫌悪」


はは、と笑えば「誤魔化してんじゃねえ」と、なかなかに痛いデコピンをくらった。じんじんする額をさすりながら謝罪を口にする。

私の空笑いは、すぐに分かってしまうらしい。それくらい、普段から良く見ていてくれているんだろう。そんな爆豪くんに甘えすぎているような気がして、近頃、自己嫌悪が随所に湧き出てくる。


不甲斐なさと、情けなさと、申し訳なさ。
爆豪くんが私に対して与えてくれるものに対して何も返せていない自分への嫌悪感。

もしかしたら疲れているのかもしれない。最近トレーニングの密度をあげたから、そのせいで考えすぎるようになっているのかもしれない。分からない。私のことなのに、私じゃ分からないのだ。そうしてまた、私のことを、私より良く知っている爆豪くんに縋ってしまう。

今だってそうだ。皆の目がある教室なのに、爆豪くんなら受け止めてくれるのではないかと、つい吐露してしまっている。甘えている以外のなにものでもない。


「酷え顔」


むに、と頬を摘まれる。
私の思考を遮るように軽く笑った爆豪くんは、彼女という贔屓目なしに見てもかっこいい。
相変わらず、私以外に対しての暴言は目立つし行動も荒いけれど、人の感情に左右されない芯の強さはヒーローそのものだと思う。それに比べて私は。


「おいなまえ」
「……はい」


いつの間にか伏せっていた視線を上げる。首を動かして初めて、自分が俯いていたことを知る。
眉間にシワを寄せた爆豪くんは「一回しか言わねえからよく聞け」と、真っ直ぐに私を見ていた。


「俺がわざわざ甘やかしてやっとんだ。てめえが甘えんのはむしろ当然だろが。ウジウジ悩んで自分は弱えとか役に立たねえとか考えとんなら燃やすぞクソが。有難がれやカス」


ちょいちょい爆豪くんらしさを孕んだ随分と男前なセリフに、ぐるぐる渦巻いていた嫌なものが払拭される。カスとかクソとか燃やすぞとか、久しぶりに言われたなあ、なんて思わず笑ってしまった。

そんな私の様子に変化を悟ったらしい彼は、まるで何事もなかったかのように購買で入手してきたのだろう激辛パンを食べ始めた。



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