浴衣でお祭り/花火大会




口笛に似たひょろ長い音が窄んでいった次の瞬間。無数の火花が、夜空に咲いた。沸いた歓声を遮断するような炸裂音が耳を聾し、赤や青、緑や黄色、紫にオレンジと、視界いっぱいにこぞって輝く色とりどりの花々が群集を染めあげる。

夏の風物詩、とはよく言ったものだ。纒わりつく暑ささえ、単なる情緒の一部へ変えてしまう。


「なまえ」
「、?」


突然鼓膜を襲った声へ振り向けば、二つのルビーがそこにいた。全く心臓に悪い。吐息が触れそうな至近距離に、ついつい高鳴った胸を押さえる。お目当ての物は買えたのか。屈めていた腰を伸ばしながら焼き鳥を咥えた勝己は、くいっと背後をしゃくった。たぶん、ついて来いって意味。

慣れない下駄を浮かせ、人混みから抜けていく背中を追う。花火が上がる度、滅多と見ない浴衣の藍色が染まって見えて綺麗だった。



連れられた先は、人気のない防波堤。花火は見えるし音もはっきり届くけれど、さっきみたいに互いの声が聞こえないほどじゃない。コンクリートに座った勝己の隣。とんとんと叩いて示されたその場所へ、ゆっくり腰を下ろす。海に落とすといけないから、下駄は先に脱いだ。丁度鼻緒が窮屈だったところ。

「ん」と差し出されたビニール袋の中には、美味しそうな焼きそばと割り箸が入っていた。


「食べていいの?」
「ん。全部食ったら殺す」
「えー」
「うっせえな。どうせンな腹減ってねえだろ」
「まあずっと食べてたしね」
「クソ甘ぇモンばっかな」
「美味しかったよ?りんご飴と綿菓子と、」
「やめろ。聞くだけで胸クソ悪ぃ」


そんなこと言って、黙って付き合ってくれたくせに。心の中で言い返し、焼きそばを開ける。割り箸をパキン。


「じゃあちょっとだけいただきます」
「おう。有難く食え」


焼き鳥を食べ終えたらしい勝己は、用済みになった串を個性で燃やした。

赤くなったり青くなったり。未だ続く花火が照らすその姿に見蕩れてしまうのは、きっと浴衣のせい。今日のために用意してくれたのか、箪笥に眠っていたのか。何でも着こなしちゃうんだもんなあ。ずるい。かっこいい。焼きそば美味しい。ねえこれ美味しいよ。マヨネーズにマスタード入ってて絶妙に辛いけど。


「勝己」と肘で小突き、振り向いたその口元に焼きそばを持っていく。お箸ですくって差し出せば「……自分で食えるわ」って言いながらも私の手首を掴み、素直にもぐもぐしてくれた。よほど気に入ったのか、それともお腹が空いているのか。珍しく口を開けて催促するものだから、思わず笑ってしまった。



【夢BOX/かっちゃんと浴衣でお祭り・爆豪勝己と花火大会】




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