真意ばかりがことばに乗らない




『てめえいつ休みだ』って脅し混じりに休日スケジュールをおさえられ、これ着てこいって長袖長ズボンにMA-1、ハイカットスニーカーに小さめリュックと全身コーデの私服指定。アスレチックにでも行くのかと思っていたけれど、どうやら後ろに乗せてくれるらしい。

地を這うような轟音が目前で停車する。艶のある黒いボディーに赤橙の装飾ライン。分厚いタイヤに大きなエンジン。見るからに厳つい大型バイク。

シールドを上げた勝己から、フルフェイスが差し出された。


「ンだその面。前から乗りてえっつっとっただろ」
「ちょっとびっくりしてるだけだけど、え……本当にいいの?」
「おう。一年経った」


なるほど。免許取得から一年未満は二人乗りをしちゃいけないって定めを律儀に守っていたあたり、なんとも勝己らしいと納得する。そういえば、乗せてってお願いした時も『来年な』的なことを言っていたようなそうでないような。まあともかく、それならそうと事前に言っておいてくれればいいものを、あいにくバイクの乗り方なんて学んでいない。


「これ、この銀のとこ踏んで乗るの?」
「乗れりゃ何でもいーわ」


そんな適当な……。

早くしろって急かされて、取り敢えず先にメットを被る。初めての閉塞感に緊張しつつ、顎でカチッと金具を留め、身バレ防止だろうスモークがかったシールドをおろした。限られた視界の中、車体の横についている銀の棒を踏み台に、勝己の肩を掴んで跨る。

うわ、意外と高い。きっと私じゃ、両足どころか片足だってつきやしない。

なんだか慣れない感覚にドギマギしている内、ブォンッと唸るエンジン音。ドッドッドッて伝わってきた地鳴りの如く振動が、ぞくぞく胸を掻き立てる。ちょっと怖さはあるけれど、それでもこんなに楽しみなのは誰より信頼している勝己の運転だからだろう。


「どこ持ったらいい?」
「あ"? 今何つったなまえ」


良く聞こえなかったのか、振り向いた赤目に睨まれる。渋々片手を振って示せば伸びてきた手に腕を掴まれ、勝己のお腹へ誘導された。最早バックハグ状態。前で指を組むよう促され、自然、広い背中に密着する。なんせ人より鍛えている男の体。当然厚みがある上にジャケットだって着ているわけで、私の短い腕じゃあゆとりなんて生まれない。座る位置も寄ってしまって、勝己の太腿へ膝が当たる。恥ずかしい。こんなにくっついて運転しづらくないんだろうか。聞こうにも再びエンジンをふかされては、きゅっとしがみつく他ない。

出発の合図だろう。組んでいる手を軽く叩かれ、二重窓さえ震わせながら景色が動く。


これが本来、カップルくらいしか殆どしない乗り方だって知ったのは、私に散々くっつかれて心なしかご満悦な彼と風になった後の話。


title ユリ柩
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