伏せ字だらけのアイラブユー




人間関係において、大丈夫? ちゃんとヒーローやってける? 泣いてる子どもちゃんのお相手出来る? って心配になるくらい昔から不器用で無愛想な消太が、仕事の合間にちょこちょこ我が家へ寄るようになって一年と二ヶ月。ようやく警戒心満載な愛猫が逃げなくなった。どころか玄関を開けて彼と話していると、ひょこひょこ覗きにやってくる。壁から半分顔を出し、じぃーっとおやつを待つ姿に二人揃って恒例のノックダウン。なんてったって天使級に可愛い。




リビングで念願のおやつタイムを迎えた白猫一匹。鋭い歯をチラ見せしながら、ざらついた舌ではぐはぐしている小さなお口を眺める男が一人。相変わらず真っ黒な背を横目にコーヒーを淹れる。

アングラとはいえヒーローと教師を兼任している今、決して暇じゃないだろう彼は、それでも定期的に会いにくるほど猫が好きらしい。そのくせ自分で飼う気は起きないというのだから不思議だ。私なんてもう三匹飼いたい。猫砂とか餌代に余裕があるなら全種類飼いたい。


テーブルへ、ティーカップをことり。


「コーヒーこっち置いとくね」
「ああ、いつも悪い」
「全然。こっちも助かってるよ。消太が遊んでくれると良く寝るし夜泣きもしないし」
「……そうか」


ああ、これは喜んでるなあ。

感情表現に乏しい彼だけれど、なんとなく分かる。無骨な低音がほんのり和らぐ振れ幅を、私の鼓膜は知っている。聞き分けられるくらい長い期間、それだけこっそり眺めてきた。眼差しだって幾分緩み、やっと触れるようになった小さな頭を撫でる手付きも随分優しい。

嬉しいと思う。自分の子ども同然な愛猫を、日々世間の荒波に揉まれているだろう旧友が大事に愛でてくれる。彼が癒しと思える場所を、他の誰でもない私が提供出来ている。元気にやってる? って生存確認を送るまでもなく会える。これほど贅沢なことってない。




遊び疲れたのか、飽きたのか。広い胡座の上へ乗りあがった白いふわふわが丸くなり、ゴロゴロ喉を鳴らしだす。あーあ、消太動けなくなっちゃったね。微笑ましく思いながらカフェオレを啜れば、黒いモサモサが振り向いた。嬉しいけどコーヒーが飲みたい。そんななんとも複雑な顔で「……なまえ」なんて呼ぶんだから、もう愛しくって笑っちゃう。

仕方ない。持って行ってあげよう。

カップを片手に歩み寄り、手渡す代わり。発せられた「すまん」は心底申し訳なさそうで、やっぱり笑ってしまいながら「今度私の相手もしてね」って悪戯に返した。


title 白鉛筆
(拍手ログ)




back